保と恵の出会いから、環のパリの物語まで スピンオフ回が『エール』に厚みをもたらす?

スピンオフ回が『エール』に厚みをもたらす

 『エール』(NHK総合)の第12週は「アナザーストーリー」と題されたスピンオフで、環(柴咲コウ)、安隆(光石研)らのエピソードが描かれた。オムニバス形式で進行し、ファンタジー要素のあるものから登場人物が今日に至るまでの秘話など、遊び心いっぱいの週となった。「今週は特別企画、とっぴな設定や、裕一と音の出ない回もございますが、いつもと違うエールをお楽しみください」と前置きされて始まる言葉通り、裕一(窪田正孝)や音(二階堂ふみ)のエピソードはほとんど描かれず、ほぼ全編がオリジナルで撮り下ろされた内容となっている。

 第56、57話は、安隆があの世から地上に戻ってくる「父、帰る」という物語。安隆が大きくなった3人の娘や光子(薬師丸ひろ子)と再会し、それぞれの近況を聞きながら嬉しそうに目を細める姿を描く。第58話は、「古本屋の恋」として「バンブー」の店主・保(野間口徹)と恵(仲里依紗)のなれそめが語られた。幼少期の久志(山口太幹)も登場し、恋のキューピッドとして大活躍する。第59、60話は、「環のパリの物語」と題され、環がパリに渡ってすぐに経験した悲恋を描く。スピンオフとは思えない重厚な物語からは、環が本編で見せた音への厳しい態度の理由が浮き彫りになる。さらに、「父、帰る 後編」「環のパリの物語」はそれぞれ似たような主題を扱っており、芸術を志す上での嫉妬心との向き合い方を表現している。金子ノブアキ演じる嗣人の環に対する感情の爆発はその最たるものとして、あまりの生々しさと激しさに視聴者を動揺させた。しかし、こうした背景を丁寧に描くことは、『エール』の世界により厚みを持たせ、本編を深く味わうきっかけにもなるだろう。

 昨今の朝ドラでは『スカーレット』がそうであったように、スピンオフを放送する週を本編放送期間中に差し込むようになった。これは魅力的な登場人物が多く、時間を割いて描くに足るバックボーンを持ったキャラクターが多数登場していることが理由に挙げられるだろう。しかし、『スカーレット』で放送されたスピンオフのほとんどは回想シーンで、すでに撮影された素材を再編集したもの。さらにロケーションもカフェ「サニーデイ」のワンシチュエーションであった。登場人物の魅力はふんだんに伝わりつつも、こうした「省エネ」な作り方の部分に対しては疑問の声があったのも事実だ。

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