朝ドラ『エール』窪田正孝×佐久本宝が表現した兄弟の愛憎 裕一と浩二が笑顔で再会する日を願って
裕一(窪田正孝)と浩二(佐久本宝)は兄弟でありながら、子供のころから多くの違いを抱えたキャラクターであった。『エール』(NHK総合)第11週「家族のうた」では、久しぶりに福島に帰省する裕一と音(二階堂ふみ)が、古山家で過ごす様子が描かれる。裕一と顔をあわせるなり「よくヘラヘラと帰ってこれたな」と吐き捨てた浩二。兄弟の確執は未だ尾を引いていた。
だが、この2人にも三郎(唐沢寿明)の死をきっかけに改めてお互いの立場を整理する時が来る。三郎が生前、裕一を呼び出して伝えたことは、土地と家は浩二に譲りたいという意思だった。さらに、三郎が死の直前、浩二を呼び出して伝えたのは、自身が死んだら喪主を務めてほしいということ、そして裕一に承諾を得たので古山家の土地と家を相続し、正式に後継となってほしいということだった。最後に三郎と話したこの時間は、浩二にとっては初めて自分の存在が報われる瞬間となっただろう。今まで浩二が悩んできたことをすくい上げるように、三郎は優しく言葉をかけるのであった。
音楽の才能がある一方で、自分の気持ちや考えを器用に言葉にすることができない裕一は、幼い頃は特に家族とさえスムーズなコミュニケーションを取れずにいた。父や母がしきりに裕一を気にかけるのは、裕一が思っていることを上手く表現する術が音楽しかないということをわかっていたからである。
しかし、浩二は違った。なんでもそつなくこなし器用な浩二は、学校でも問題なく過ごし両親の手を煩わせることなく育つ。だが、その器用さが仇となり、父や母から注目されて手をかけてもらう機会は少なかった。こうした気質の違いから起こる親からの扱いの差は、兄弟の確執をより強調し、2人を徹底的に遠ざける要因になってしまう。
特に浩二は、なんでも特別に許される裕一の存在に対して嫉妬の心を抑えられずにいた。第11週ではそんな浩二が改めて救われていく様子が描かれ、これまで両親がどうして裕一をかばうように過ごしてきたのかを知ることができる。このことは浩二にとって心が浄化される思いだったろう。