佐久本宝、『エール』の中で際立つ“怒り” 負の感情を体現できる若手屈指の演技派に

佐久本宝、『エール』の中で際立つ“怒り” 負の感情を体現できる若手屈指の演技派に

 家出同然で福島を飛び出し、作曲家の道を選び、音(二階堂ふみ)との結婚を決めた裕一(窪田正孝)。我が道を突き進む主人公夫婦が描かれる朝ドラ『エール』(NHK総合)において、“普通”であり続けているのが、裕一の弟・浩二(佐久本宝)だ。

 幼き頃から兄を中心にまわる古山家の中で、浩二は我慢を積み重ねてきた。5月4日放送の第26話では、溜めに溜めた裕一への不満が爆発。浩二が裕一に放った「周りの愛を当たり前だと思うなよ!」は、『エール』全編の中で最も印象的なセリフと言っても過言ではないだろう。

 そんな浩二を好演中の佐久本宝について、ライターの木俣冬氏は次のように語る。

「朝ドラでは、光り輝く主人公と対になる形で影の役割を担うキャラクターが登場することが多いです。例えば、『あさが来た』のあさ(波瑠)とはつ(宮崎あおい)。さまざまな登場人物のドラマを描くという点で、この形は王道とも言えます。が、それにしても本作の浩二はここまでのところ光がまったく当たることがなく、負の側面を背負わされています。浩二が爆発した第26話では、浩二の意見に賛同する視聴者が多かったように、彼の言っていることは正論なんですよね。裕一が去った後もひとりで喜多一を支えていたのが垣間見えて何とも不憫です。佐久本さんが本当に見事に演じていることもあり、全体的にコメディテイストな『エール』の中で、浩二のシリアスさが余計に際立っています。いい意味で、ほかの出演者たちに溶け込んだ演技になっていない。異物感があるんです。だから浩二の言葉が非常に強く残る。『エール』の生々しいドラマ部分を一挙に引き受けていると言っても過言ではないと思います」

 また、佐久本には、「“昭和の俳優の香り”がある」と木俣氏は続ける。

「佐久本さんは、役者デビュー作が李相日監督作『怒り』だったことが象徴的なように、溜めに溜めた感情を爆発させる演技が非常に巧みだなと感じます。近年の若手俳優は感情をサラッと表現する、内に秘めた思いを外に出さないような芝居をしている印象があったのですが、佐久本さんはそれと真逆な印象です。ドロドロした感情を吐き出すような“昭和の俳優の香り”があるんです。李相日監督は役者に厳しいとよく耳にしますが、その現場で鍛えられたことがいまにつながっているのではないでしょうか。朝ドラは“再現ドラマ”ではないので、昭和が舞台でも髪型や服の着こなしなど、あえて現代っぽさを取り入れているところがあるように感じます。『エール』も然りで、その中で、佐久本さんは“昭和”の人物として存在している。だからこそ、余計に浩二があの世界の中で“取り残された人物”として浮かび上がっている気がしています」

 朝ドラをきっかけに飛躍を遂げる俳優は多いが、佐久本も間違いなくそうなるだろうと木俣氏は語る。

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