宮藤官九郎、福田雄一と異なる喜劇作家に 『美食探偵 明智五郎』脚本・田辺茂範への期待
小劇場のノリをもった喜劇の描ける作家といえば、古くは井上ひさし(殿堂入りと言っていいだろう)、そして三谷幸喜、宮藤官九郎、福田雄一などが代表的。最近では『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の徳尾浩司や、『あなたの番です』(日本テレビ系)の福原充則などが続く。演劇出身といってもそれぞれ特徴があり、文脈があるのでひとくくりにはできないし、ここでは解説を省く。
そのなかで「ロリータ男爵」は、美大出身ゆえの凝った舞台美術のなかで、俳優の個性を十二分に生かしたテンションの高い演技と歌で、小劇場の評論家筋には評価が高かった。俳優がセリフをまくしたてる感じは『トクサツガガガ』や『美食探偵』の小芝風花がしっかり受け継いでいる。そのまくしたてるセリフもミュージカルも、そこに何かがあるわけではなく、熱いのにどこか空虚感があるのが特徴で、60、70年代に築かれた演劇とは確実に違うものが生まれている、そんな過渡期の演劇だったように思う。だがその後、まったく違う「静かな演劇」が生まれ、00年代は急速にそっちに向かっていくので、ロリータ男爵はその狭間に取り残された感がややある。
でもここへ来て作家の田辺茂範が活躍をはじめた。メタフィクションの手法を使って、旧来の演劇の熱さや過剰さを客観視してスタイルにする福田雄一が現れ、そしてそこにやさしい世界を加えた徳尾浩司。演劇批評の世界では取り上げられることが少なかった彼らが、映像の世界で主流となってきたいま、田辺の書くものも時代と重なってきたのである。『恋神』や『ロボっこ』など劇中劇的な、ドラマ世界に埋没しない、ちょっと外から眺める作風は、とても見やすく、江戸川乱歩の明智小五郎のパロディである『美食探偵』にも田辺の作風はマッチしている。ただ、田辺は演劇批評にあがってなくはなかったので、福田、徳尾ラインともまた違う。そのちょっとだけ違うところに可能性を感じている。
■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。
■放送情報
『美食探偵 明智五郎』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜23:25放送
出演:中村倫也、小芝風花、佐藤寛太、富田望生、北村有起哉、小池栄子、武田真治、仲里依紗、志田未来、財前直見、モロ師岡、宮崎哲弥(写真)
原作:『美食探偵 明智五郎』東村アキコ(集英社『ココハナ』連載)
脚本:田辺茂範
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:荻野哲弘、本多繁勝(AX-ON)、西紀州(AX-ON)
協力プロデューサー:吉川恵美子
演出:菅原伸太郎、水野格ほか
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/bishoku/
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