コロナ禍の時代に問う、高度医療のパラドックス 一挙再放送『JIN-仁-』を今観る意義
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、春の連続ドラマが次々に撮影中断となりスタートも延期に。その影響もあって、過去の名作ドラマの再放送が始まっている。TBSが4月18日(土)から土日に一挙放送するのは、2009年と2011年に放送された『JIN-仁-』(TBS系)。村上もとかの漫画を基に、大学病院勤務の脳外科医・南方仁(大沢たかお)が幕末の江戸の街にタイムスリップし、当時の人々を疫病や性病、ケガなどからを救う様を描く異色の時代劇だ。
この物語の一番面白いところは、21世紀の医療を身に着けた仁が、まだ西洋医学を信用していない江戸の人々にとっては魔術のようにも見える超先進的な治療法を施していくという、それまでの時代劇ではありえない設定。仁はまず斬り合いで額を割られた旗本の恭太郎(小出恵介)を緊急手術によって急性血腫から救い、その後も、当時、流行した“コロリ”(コレラ)の感染拡大を防いだり、遊郭に蔓延していた“瘡毒”(梅毒)の治療のために抗生物質ペニシリンを本家フレミング(ノーベル賞受賞科学者)に先駆けて発明したりする。もちろん治療効果はめざましく、仁は名医として認められていくことに。この展開、ゲーム用語で言うところの“チート”感があって、たまらない。また、劇中で仁が「(現代で自分が)手術を成功させてきたのは、俺の腕じゃなかったんだ。今まで誰かが作ってきてくれた薬や技術、設備や知識だったんだ」と語る医学の偉大な進歩についてもひとつひとつ学べる。
同時に、仁はタイムスリップに付き物の「未来を知る自分が歴史を変えてしまっていいのか」という葛藤も抱えることに。それゆえ、コレラや梅毒という病も、いったんは治療をためらうのだが、結局、目の前の患者を救うために現代的な医療を施して歴史を変えてしまう。仁を認めて西洋医学所に迎えてくれた当時、最も優秀な蘭方医・緒方洪庵(武田鉄矢)も「仁先生の医術はすばらしいが、(画期的すぎて)恐ろしい」と言って危惧する。
このジレンマは、コロナ禍の最中にある私たちにもリンクする。ここで唐突だが、東京大学の放射線科医、前田恵理子氏がFacebookにポストした文章を引用させていただく。
「100年前なら、こんなウイルスが流行っても、医療は当てにできず多くの患者さんが亡くなって数年で収束しました。しかし、人類、とくに先進国は高度医療という魔法の力を知ってしまったために、『医療を崩壊させずにゆっくりじんわり集団免疫を獲得する』道を選ぶしか選択肢がなくなりました。これはある意味、医療を諦めて感染爆発を許容するより困難な道のりです」(引用:前田恵理子氏のFacebookより)
高度医療は魔法の力。仁がぶち当たるパラドックスは、まさに今、私たちが直面している問題でもある。
しかも、仁が「歴史を変えてしまう」のは医学の分野だけでなく、政治や社会をも含まれる。仁が偶然、出会った土佐脱藩の浪士は、後に明治維新に向けて大働きをする坂本龍馬だった。そんな龍馬が史実どおり暗殺されてしまうのかどうかというのも、大きなポイントになっていく。さらには勝海舟、徳川慶喜、皇女和宮までが登場し、ダイナミックな歴史の動きが物語にスケール感をプラスする。