『映像研には手を出すな!』金森の存在から考える、自主制作アニメーションの現在

『映像研』自主制作での金森の立ち位置は?

 自主制作アニメーションで話題になった監督は、そのまま監督としてキャリアを積むことも期待されやすい。同時に、その機会を与える会社にも期待が託されてきた。例えば『君の名は。』や『天気の子』などで有名なコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)は、新海誠監督の他にも様々な監督をプロデュースしてきた。なかには、CWFでの『カクレンボ』(2004年)の制作を機に神風動画から独立したYAMATOWORKSの森田修平監督もいる(森田監督は、現在サンライズと『ORBITAL ERA』を制作している)。

 記憶に新しいのは、『けものフレンズ』で関心を集めたヤオヨロズだろう。『けものフレンズ』で商業監督デビューを飾り、一躍ファンを獲得したたつき監督は、それ以降、自主制作アニメーションの『ケムリクサ』や『へんたつ』などが、立て続けにTVシリーズ化されている。

 こういった監督が原作も兼ねている場合は、本来自主制作から商業へ移行していく過程が傍目には分かりにくい。たつき監督の場合は自主制作と商業制作の境目がなくなっている例とも言える。現在放送中の『へんたつ』に関しては、たつき監督が自身の自主制作団体・irodoriを中心に、少人数のままで制作しているのもあるが、『ケムリクサ』では自主制作版をパイロット版として本編が制作されたのに対し、『へんたつ』では自主制作版で一旦完成させていたものを基本としている。総尺の差はあるものの、その垣根は徐々に低くなってきている。

 また『映像研』の制作陣にも自主制作アニメーションに関わりが深い人は少なからず存在している。サイエンスSARUの所属では、オープニングや作画監督、絵コンテなどでクレジットされている木下絵李が、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の出身だ。同専攻の作品は、国内外の映画祭やコンテストで存在感を示している。

自主制作アニメ「K×Drop!!」

 外部から参加では、学生時代に自主制作アニメーションの『K×Drop!!』などを監督した水谷汐里がいる。水谷が所属するスタジオコロリドは、『ペンギン・ハイウェイ』などの監督・石田祐康が所属していることで知られる(石田もまた、学生時代から自主制作アニメーションの『フミコの告白』などで有名だった)。

「フミコの告白」Fumiko's Confession

 エンディングには、原作者の大童澄瞳が制作に参加している。その大童は自主制作アニメーション『クラユカバ』のプロジェクトにも参加している。『クラユカバ』は自主制作アニメーションの『ウシガエル』などで知られる塚原重義が監督。クラウドファンディングで700万円弱が集まり、そろそろパイロット版が完成する。長編化を目指しており、こちらの完成も楽しみに待ちたい。

 プロデューサーの役割を金森のように内に求めるか、それとも外に求めるかでも異なるにしても、自主制作アニメーションの経験者が商業でも引き続き監督を務められる環境は望ましい。日の目を浴びる機会が少なくとも、映像研のように熱量を持って取り組んでいる人がいて、さらにそこから商業デビューする人もいる。『映像研』とともにチェックしてみるのもいいだろう。 

■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画)、「平成30年史 激変!アニメーション環境」(著述)など。

■放送情報
TVアニメ『映像研には手を出すな!』
NHK総合にて、毎週日曜深夜24:10〜
原作:大童澄瞳(小学館『月刊!スピリッツ』連載中)
監督:湯浅政明
声の出演:伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里ほか
キャラクターデザイン:浅野直之
音楽:オオルタイチ
アニメーション制作:サイエンスSARU
(c)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
公式サイト:eizouken-anime.com
公式Twitter:@Eizouken_anime

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる