『映像研には手を出すな!』金森の存在から考える、自主制作アニメーションの現在
NHK総合にて放送中のアニメ『映像研には手を出すな!』が、好評の中で終盤を迎えている。さらに4月からはMBS・TBSでドラマの放送、5月には実写映画の公開も控えている。このアニメーション制作を志す3人の女子高校生の青春冒険譚が描かれる本作は、自主制作アニメーションという点でも注目できる。
自主制作アニメーションは、大学生・専門学校生が在学中(課題や卒業制作も含む)に個人・グループで制作したり、監督が実費で制作したりする作品を指す。映画祭やコンテストではインディーズ、ゲームではインディー、同人誌即売会では同人といったり呼称も様々だ。近年では動画配信サイトの発展により、自主制作アニメーションも権利者がアップしていれば、誰でも観られる環境にもなった。ところで、それらを制作する環境はどのように整えられていくのだろうか。ここでは自主制作アニメーションにおけるプロデューサーの立ち位置や、商業へ移行していく過程について考えてみたい。
『映像研』の特徴としては、やはりプロデューサー的な役割の金森さやかの存在が挙げられる。金森は、監督の浅草みどりやアニメーターの水崎ツバメをバランスよくサポート、コントロールする頼もしい存在で、臆することなく正論をズバズバ言うところに人気がある。海外でも人気が高いのは、顔のパーツがアニメというよりアニメーションに近いのもありそうだ(この場合のアニメとアニメーションの意味はリミテッドやフルといった作画枚数の多寡ではなく、作風や絵柄としての解釈になる)。
金森のような役割の人物は、実際の自主制作アニメーション界隈ではレアな存在である。制作を主体としたサークルや部活では、浅草や水崎はともかく、制作せずに注文をつけるだけの人の居心地が良いとは言い難い。映像研は、あらかじめ金森と関係が築けていて、すでにある団体に入るのではなく、新たに立ち上げた部活動だから成立していると言える。
実際の自主制作アニメーションの現場では、外部から仕事が舞い込んできたとしても、その多くは監督自身でギャラやスケジュールなどを管理することになる。特にMVのような単発の作品の場合、そこまで作業量を必要としないのであれば、自身で完成させることが想定されている場合も多い。仮にギャラに色がついていたとしても優先されるのはキャラクターや背景の作画や彩色ができる人になる。案件を抱え込み、制作ラインの維持が厳しくなった時に初めて、プロデューサーの存在が必要になるのだ。
映像研においては、浅草が制作してみたい“最強の世界”の妄想を水崎とともに繰り広げて止まらないところから、金森が可能な範囲で折り合いをつける役割も果たしている。もともと浅草が引っ込み思案で交渉事が苦手なこともあるが、結果的に金森の存在が、学生の間から社会人として自立するためのスキルを磨く役割をも兼ねている。
そのため、金森が浅草の代わりに高校の内外で交渉してまわる様子は会社のようでもある。つまり映像研の活動は、自主制作というよりもさながらオリジナル企画や新規IPの立ち上げに近いかもしれない。その奮闘ぶりは、社内ベンチャーのようでもある。そのように考えると、自主制作では所在なさげな金森の立ち位置がしっくりくるのだ。