売れっ子クリエーターの原点! 舞台版『フリーバッグ』はテレビ版を観た人も観ていない人も必見

舞台版『フリーバッグ』の見どころを解説

 海外ドラマ好きであれば昨年から色んなところで頻繁に名前を見かけるクリエーターであり、「今を時めく」という言葉を躊躇なく使える目覚ましい活躍を見せているフィービー・ウォーラー=ブリッジ。彼女がクリエーターおよび主演を務めた『フリーバッグ』(Amazon Prime Video)は、昨年の第71回エミー賞で11部門にノミネートされ、長年コメディ部門で主演女優賞を独占してきたベテラン、ジュリア・ルイス=ドレイファスを押しのけて、彼女自身も主演女優賞を受賞。さらにはコメディ部門の作品賞まで獲得し、アメリカのテレビ界の一躍トップに躍り出た。『フリーバッグ』だけではなく、同じくエミー賞ノミネートの人気テレビシリーズ『キリング・イヴ』、今年公開予定の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の製作にも関わる彼女。そんな超売れっ子の彼女が、今だからこそできることとして、原点である『フリーバッグ』の舞台版に取り組んでいる。普通なら彼女の舞台はロンドンやニューヨークにわざわざ行かないと観れない上に、当然チケットは入手困難だが、今回日本で観れるチャンスが巡ってきた。3月13日(金)から国内の一部映画館にて『ナショナル・シアター・ライブ』のラインナップの一つとして上映されるのだ。

今を時めく売れっ子クリエーターの原点が日本上陸

(c)NTL 2019 Fleabag photo by Matt Humphrey

 『ナショナル・シアター・ライブ』とは、「英国ナショナル・シアターが厳選した、世界で観られるべき傑作舞台をこだわりのカメラワークで収録し各国の映画館で上映する画期的なプロジェクト」(公式サイトより)。今回その中の1作として『フリーバッグ』舞台版が日本上陸するのだ。『フリーバッグ』は2013年にエディンバラで上演された舞台が最初であり、今回はテレビ版で人気を博した後の最新版として上演されたものが映画館で上演される。モルモットカフェを友人と営むセックス依存症のアラサー女性が、友人のこと、家族のこと、仕事のことを、時折観客に向かって語りかけながら笑いと毒舌で赤裸々に表現していく『フリーバッグ』。テレビ版の大ファンである筆者としては、テレビ版がフィービーの一人芝居になっただけかと思っていたが、そんな過去の自分を消し去りたいくらいに、完全に「舞台版」としての個性が際立つ作品だ。率直に言って、テレビ版を観た人、観ていない人どちらの心もグッと掴む内容になっていることに頭が下がる。

 GQ誌のインタビューでアメリカコメディ界のベテラン、ティナ・フェイから「自分が演じるために脚本を書くのと、誰かが演じるために脚本を書くのかで好みはある? それとも特に好みはない?」との問いに、フィービーは「(好みではなく)実際のところ本能的に選んでる」と答えている。舞台版『フリーバッグ』では、他ならぬ自分が脚本を書き、それを演じるからこそ、一つひとつすべての文を信じなければならなかったそうだ。脚本家としての挑戦と役者としての挑戦、両輪を回し、自問自答しながら作り上げたのが舞台版『フリーバッグ』なのだ。

 舞台版では当然ながら、主人公のフリーバッグ以外のキャラもフィービーが演じている。間も表情もすべてフィービーがコントロールしている。緊張感と観客との距離感、次にどんなオチが待っているのかというドキドキ感、そして言葉遣いや表現のエッジは、テレビ版よりも鋭い内容になっている。2019年版にアップデートされているとはいえ、本質的に主人公のフリーバッグというキャラクターは2013年にすでに出来上がっていたのかと思うと、1人の女性の生き方について、良い面だけでなく、皮肉、怒りや暴力性、打ちのめされた悲しみなどをコメディをベースに具現化していた彼女の才能には、やはり目を見張るものがある。

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