『知らなくていいコト』は上下移動のドラマだ 大石静が問いかける“人間のあるべき姿“とは?
ケイトの家と尾高のスタジオにはそれぞれ真ん中に印象的な階段が配置されている。マンション内で起きている芸能人の不倫を暴いていた過去の2人は、自分たちがやがてそちらの立場になるとは思わずに、対象の人物たちを下から見上げている。
次に第5話において、自宅で、尾高にすがるように抱きついたケイト。暗い部屋にいるケイトから見ると、尾高のいる場所から光が差している。そんな2人が抱き合う瞬間をカメラが上方から映すことで、まるでケイトは教会で救いを求めて何かにすがる人のようだ。
一方、スタジオでの一線を越えるキスシーンは、正面からの2人の横顔を示すショットであり、そこに光が重なっていくのは、2人の初めてのキスである朝方の車内のキスシーンを重ねるためである。
そして極めつけは、ケイトの「なんで下に降りてきちゃったんだっけ、もっと上にいればよかった」という第7話における、2階で一夜を共にした後の台詞だ。禁じられた恋に溺れる恋人たちは、宙に浮いたような場所でつかの間全てを忘れたように愛を求め合う。だから、地上にはいたくない。現実に引き戻されてしまうのが嫌だから
小泉(関水渚)の台詞「人の気持ちなんて日々変化しますから」、ケイトの台詞「幸せってさ、手に入らないから幸せなんじゃないの」。第9話において「あの時は好きだったけど今は違う」と野中に告げる女性2人の台詞は、女性の残酷さ含めて、このドラマの恋愛の全てを語っていた。最初から小泉は、ケイトと付き合っている野中を好意の目で見つめ、野中は、ケイトと尾高を見つめていた。そして妻子がいる尾高をケイトが見つめている。彼らはいつも「手に入らないから」その誰かを求めている。簡単に手に入る時は、その魅力に気づかない。「あの時」はどうしようもなく好きだったけれど、今は違う。「あの時」は興味を失ったけれど、今はどうしようもなく好き。人は失った過去を追い求め、手に入らない幸せを渇望せずにはいられない。
「人間の様々な側面を伝え、人間とは何かを考える材料を提供する」とは岩谷(佐々木蔵之介)が語る「週刊イースト」のあるべき姿だ。まさにこのドラマは、そういった人間の様々な側面を捉え、問いかけるドラマだった。
最終回、ケイトは何を見つめ、彼女の恋はどこに辿りつくのか。すっきりした答えは望んでいない。それが彼らの描いてきた、「人間」のあるべき姿だからだ。ただ、このドラマがどこに行き着くのか、固唾を呑んで見つめたいと思う。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
水曜ドラマ『知らなくていいコト』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、重岡大毅(ジャニーズWEST)、秋吉久美子、佐々木蔵之介、小林薫、本多力、小林きな子、和田聰宏、山内圭哉、関水渚、森田甘路、今井隆文ほか
脚本:大石静
演出:狩山俊輔、塚本連平ほか
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:小田玲奈、久保田充、大塚英治(ケイファクトリー)
(c)日本テレビ