伊藤健太郎「大変な道を歩く」と決意 『スカーレット』残された陶芸と向き合う時間

『スカーレット』残された武志の時間

 NHKの連続テレビ小説『スカーレット』の先週の放送回で、医師・大崎(稲垣吾郎)から、武志(伊藤健太郎)が慢性骨髄性白血病で余命3年から5年だと告げられた喜美子(戸田恵梨香)。気丈に振る舞っていた喜美子が、照子(大島優子)の前で涙を流していた。第133話では、喜美子が病名を武志に伝えるかどうか悩みながらも、武志と八郎(松下洸平)と過ごす穏やかな日々が描かれた。

 武志と八郎は桜(東未結)と桃(岡本望来)と一緒に楽しそうに羽根つきをしていた。運動神経ゼロの八郎にツッコミを入れる武志だが、彼もまたどこか鈍くさかった。先週判明した武志の病名がこの先の物語に不穏な空気を漂わせた分、和気あいあいと羽根つきを楽しむ父と息子の姿に、束の間の安息を得た視聴者も多いはずだ。桜と桃に負け、顔中墨だらけになった八郎と武志の顔に、喜美子も思わず笑っていた。

 喜美子と八郎と武志の3人は、武志の将来やアパートでの生活ぶり、思い出話に花を咲かす。何気ない会話シーンなのだが、武志が語る思い出にふっと笑う喜美子と八郎の表情はやわらかく、3人が今も変わらず家族だということが伝わってくる。また、喜美子と別れ、長らく陶芸から離れていた八郎がろくろに触れ、大皿を作り上げたとき、3人が「陶芸家」としてもつながっているのだと感じられた。

 そんな平穏な時間の中でも時折、喜美子の表情が曇る瞬間があった。武志は、喜美子の師・深野心仙(イッセー尾形)の言葉「近道はないで。あっても近道はお勧めせえへん。なるべく時間をかけて歩いた方が力がつく。歩く力は大変な道の方がようつく」を母から教わったと話す。そして、「決めたで。今年の目標の1個目」「俺は、大変な道を歩く」と決心した。武志が病院に通っていることを伝えられていない八郎にとっては、陶芸家として前へ進もうとする決意に聞こえたはずだ。しかし、武志の病名を心に秘めたままにしている喜美子にとっては、病気に向き合おうとする息子の決心に聞こえたに違いない。

 武志はアパートに戻るや否や、医学書を開き「血液の病気」を調べていた。穏やかな日々が描かれたからこそ、自身の症状に疑問を持つ武志の深刻な表情と、最後に映し出された武志の背中が胸を突く。

※記事初出時、一部に記述の誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、松下洸平、伊藤健太郎、福田麻由子、稲垣吾郎 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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