サム・メンデスの新境地! 『1917 命をかけた伝令』の“シンプルな物語”と“実験的な手法”
観客に『映画とはいえ、スゲェことしてるな』と思わせる新境地を開拓しつつ、これまでのキャリアで培った技術も忘れてはいない。些細な仕草や表情一つで感情の機微を見せるのは、かつて人間関係が徐々にブッ壊れていく映画を手がけてきたメンデスの面目躍如。任務が始まる前は気の抜けたアンちゃんだった主人公が、終わった後にはまるで別人に見えるのは、役者の好演と的確な演出があってこそ。また、『007』シリーズで培った活劇の基本「走る」、サスペンスの基本「隠れる」を上手く使っている。物語の要所でベネディクト・カンバーバッチやマーク・ストロングといった大スターを配置しているのも心憎い。塹壕でタバコを吹かしたり、スキットルで酒を飲んだりと、「第一次世界大戦映画」として見たい映像も押さえてくれているし、死体をきちんと見せてくれるのも嬉しいポイント。個人的にはイイ感じに白骨化している馬や、犬の死体など、人間以外の死体も平等に見せてくれるのが好きだった。戦争では人も動物も平等に死ぬのである。
本作は全編ワンカット風の撮影が最大の売りであるが、それ以上にサム・メンデス監督の新境地として魅力的だ。これまで培ってきた技術と新しい挑戦。彼は今回、自分にはまだまだ大きな「伸びしろ」があると証明してみせた。本作は彼の円熟期の作品にして、新たな代表作となるだろう。
■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿し
ています。最近、会社に居場所がありません。Twitter
■公開情報
『1917 命をかけた伝令』
全国公開中
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作:サム・メンデス、ピッパ・ハリス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングほか
配給:東宝東和
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公式サイト:1917-movie.jp