『プリキュア』シリーズに通底する不偏のテーマ 「地球のお医者さん」を掲げる最新作への期待
ふたりから始まったプリキュアは、やがて5人体勢となり、『ヒーリングっど プリキュア』で歴代総勢60人を越える。その過程で「女の子は誰でもプリキュアになれる」という言葉も生まれた。選ばれしセーラー戦士によるHer StoryからOur Storiesへの大転換。それがプリキュアであったし、個々の事情に寄り添うその姿勢は、TV放送される作品でありながらマスのメディアが崩れる時代に合致してもいた。
そして「誰でもプリキュア」というロジックは、自然、多様性への寛容と尊重という作品に通底する不偏のテーマも産み出すことになる。放送時に流れたホテルのキャラクタールームのTVCMで「女の子はプリキュア、男の子は仮面ライダー」というステレオタイプの区別が提示された時、当然SNSでは、「女の子が仮面ライダーを好きでも良いのでは?」との反応があった。それに対する解答かの様に一昨年の『HUGっとプリキュア』では男子をキュアアンフィニに変身させた。『スター☆トゥインクルプリキュア』では、メキシコ人の父を持つ褐色の肌のプリキュアの雨宮えれな、また、当初敵役でありながら、後に共に闘う重要なキャラクター、単眼の異形の宇宙人アイワーンも登場した。
それは、国際化時代を生きる少女たちには必要な倫理観ではあるが、前作の田中昂プロデューサーによると、「今の子どもたちが置かれた環境に近いものを描くことが、共感につながる(『東京新聞』2019/3/30付夕刊より引用)」とのことで、大上段に構えた「テーマありき」の作品ではないのがプリキュア流だと言える。だから2019年秋公開の劇場版『星の歌に想いをこめて』でも、作品のテーマに巧みに絡めて環境問題を扱ってみせている。
『ヒーリングっど プリキュア』の安井一成プロデューサーは制作発表時のコメントで、「様々な命が共存共栄する地球を舞台に『生きる』という根源的なテーマに向き合います」と語っているが、多様性に寄り添った物語が、生物多様性が浸食されつつある地球環境に向き合うことになったのは必然でもあった。
プリキュアは、対象年齢の3〜6歳の児童が興味を持っている題材の音楽やお菓子などをテーマにして作品が制作されてきた。そこに環境問題を当てはめながら「地球のお医者さん」という切り口は親しみやすく、わかりやすい。
果たして『ヒーリングっど プリキュア』が難しい舵取りを要求される環境問題へ対し、どんな方法論で挑むのか。グレタ・トゥーンベリ、ビリー・アイリッシュのように、環境保護活動のアイコンたちの中ににキュアグレースが加わることになるのか、1年間興味深く観ていきたい。
■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。Instagram
※『ヒーリングっど プリキュア』の半角スペースはハートマークが正式表記。
■放送情報
『ヒーリングっど プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて、2月2日(日)8:30〜放送
シリーズディレクター:池田洋子
シリーズ構成:香村純子
キャラクターデザイン:山岡直子
美術デザイン:西田渚
音楽:寺田志保
色彩設計:坂入希代美
制作:ABCテレビ、ABCアニメーション、ADKエモーションズ、東映アニメーション