『ロマンスドール』は触覚を刺激するーー高橋一生と蒼井優が“触れる”ことで知る、他者の気持ち

『ロマンスドール』“触れる”ことの愛

 本作のキーとなるのは、二人が互いに抱えている“嘘(=ヒミツ)”だ。哲雄は自らを医療従事者だと偽り、園子と出会い、結婚後もその嘘を貫き通している。園子は園子で、自身が大病を患っていることをヒミツにし、結婚生活を続けている。しかしこの“嘘(=ヒミツ)”自体は、じつは大したことのないように思う。それ以上に問題なのが、嘘をつきながら他者と繋がり(触れ合い)続けることは難しいだろうということだ。だからこそ二人は心のすれ違いだけでなく、それを象徴づけるように身体的な触れ合いが見られなくなっていくのである。

 人々のコミュニケーションの取り方はさまざまだ。言語によるコミュニケーションもそうだが、「言葉にしなくても分かる」という方々も世の中にはいるらしい。それはそのカップルの間だけで成立するものなのだろう。そんななかでも、やはり直接的に肌と肌を通して温もりを伝え合うこと以上に、高度かつストレートなコミュニケーションの取り方はないのではないかと思う。『ロマンスドール』にみる“触れる”という行為は、もともと他人であったはずの誰かを理解したいという気持ちの表れでもあるように思えるし、そういった瞬間が、この映画にはいくつも収められている。互いが互いを想えば想うほど、彼らは肌に触れ合う。そこから感じ取ることのできる親密さが、私たちの“触覚”を刺激するように思えるのだ。映画のなかにみた彼らの“愛”を信じるならば、これは錯覚ではないはずである。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『ロマンスドール』
全国公開中
出演:高橋一生、蒼井優、浜野謙太、三浦透子、大倉孝ニ、ピエール瀧、きたろう、渡辺えり
脚本・監督:タナダユキ
原作:タナダユキ『ロマンスドール』(KADOKAWA刊)
配給:KADOKAWA
(c)2019「ロマンスドール」製作委員会
公式サイト:romancedoll.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる