『Love Letter』と『ラストレター』ーー豊川悦司と中山美穂が見せた、“運命”の美しさ・残酷さ

『ラストレター』が描く“運命”の美しさ・残酷さ

 人生はままならないーー思わずそう、つぶやきたくなる。残酷だからこそ、美しいのだろうか。今作『ラストレター』では、鏡史郎と想い人である遠野未咲が文通をすることになる。しかし実際のところ彼女はすでに他界しており、その文通相手は彼女の妹・裕里(松たか子)であり、未咲と瓜二つの娘・鮎美(広瀬すず)と、その従姉妹で、かつ裕里の娘・颯香(森七菜)なのだ。この女性陣が、“未咲になりすます”のである。そのやり取りの過程で、鏡史郎は甘酸っぱい青春時代の記憶へと誘われる。まるで奇跡のような、まさに運命のような、手紙を介しての彼女らとの邂逅。彼は想い人との運命的な再会に胸を高鳴らせるが、現実は思った以上に残酷で、あっけないものだ。初恋相手の未咲は大学時代にとある男に奪われ、彼らは結婚し、そして出会いから“25年”以上もの時を経たいま、彼女はすでに他界していることをやがて知るのである。

 このとある男・阿藤を演じているのが豊川悦司だ。阿藤の暴力に耐える日々のなか、美咲は体調を崩しがちになり、やがて自ら命を絶ってしまったのだという。そして彼はいま、サカエ(中山)という女性と生活をともにしている。鏡史郎にとっての“25年”という時間、そして『Love Letter』から“25年”の時を経て、この『ラストレター』に再度“カップル”として姿を見せた豊川と中山のコンビ。私たち観客の生きるリアルと、『ラストレター』の中で流れる“25年”という歳月ーー。二作において豊川&中山コンビが演じているのはまったく別の人物だが、“運命”というものを主軸に捉えたとき、このキャスティングには必然性を感じざるを得ない。

 博子と秋葉は、あの後、必ずしも幸福な人生を歩んだとは限らないのである。今作に登場する阿藤とサカエのカップルのように、さもしい生活を送っているのかもしれない。しかしこれは筆者の主観に他ならず、とうの本人たちがどのようにいまを生きているのかは知りようがない。後者の二人は傍目には幸福そうだとはいい難いが、それは圧倒的な他者である私たちには、図ることができないのだ。阿藤のセリフからも聞くことができるとおり、“私たちは、他者の人生にどこまで関与できるのか”という問題でもある。美しさ、あっけなさ、残酷さ。『Love Letter』と『ラストレター』に登場する豊川悦司と中山美穂のコンビは、こういった運命の持ついくつもの側面(あるいは、可能性)を示す存在のように思えるのだ。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『ラストレター』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本・編集:岩井俊二
原作:岩井俊二『ラストレター』(文春文庫刊)
音楽:小林武史
出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治
主題歌:森七菜「カエルノウタ」(作詞:岩井俊二/作曲:小林武史)
配給:東宝
(c)2020「ラストレター」製作委員会
公式サイト:https://last-letter-movie.jp/

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