【ネタバレあり】『パラサイト 半地下の家族』は何が凄いのか? ポン・ジュノ監督の“建築的感性”を紐解く

『パラサイト』高評価の要因は設計思想?

 閑話休題。昨年10月に試写を観た時から、レベルが天井破りに高すぎて何も見えねえ! とお手上げ状態だった『パラサイト 半地下の家族』だが、実は唯一、ちょっとだけ尻尾をつかんだ気がしたのがラストだった。正確には「物語の終わらせ方」と言うべきか。

 ずいぶんわかりやすくしたな、と思った。キム一家の数奇な運命について解釈自由な曖昧さをほとんど残さず、親切に語り切っている。例えば『殺人の追憶』の「真犯人の姿をついに見せない」ーーその投げ出し方ゆえに途方もなく深い余韻を残す宙吊りのオープンエンディングとは明らかに「選択の質」が違う。

 この「わかりやすさ」への舵の切り方はハリウッドを経由したからだと思う。正直、実際海の向こうに遠征して撮った『スノーピアサー』と『オクジャ/okja』はポン・ジュノの映画思想が概念的に形骸化し、ストーリーもキャラクラーも記号的でやや空疎な出来に感じていたのだが、そこから韓国に持ち帰ったのが世界基準の観客受容センスだった。

 思えばオープンセットの予算の掛け方といい、『パラサイト 半地下の家族』は「韓国で撮ったハリウッド映画」と考えれば、いろいろ合点がいく。細かく形容すれば、韓国の地べたのリアリティに密着して撮った真にハリウッド相当の映画。その位相がポン・ジュノという天才を衝撃のネクストレベルに押し上げたわけだ。

 この『パラサイト 半地下の家族』と同様の意味で、「日本で撮ったハリウッド映画」を実現したのは誰か? と日本映画史を紐解くと、それはおそらく黒澤明だけではないかと思われる。1985年の『乱』(日本・フランス合作)は米アカデミー賞で監督賞ほか4部門ノミネートを果たし、ワダ・エミが衣裳デザイン賞に輝いた。普段はぶっちゃけアカデミー賞にさほど関心のない筆者だが、今年は『パラサイト 半地下の家族』がどれほどの「乱」を巻き起こしてくれるのか、珍しくワクワクしている。

■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。

■公開情報
『パラサイト 半地下の家族』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督:ポン・ジュノ
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:チョン・ジェイル
提供:『パラサイト半地下の家族』フィルムパートナーズ
配給:ビターズ・エンド
2019年/韓国/132分/2.35:1/英題:Parasite/原題:Gisaengchung/PG-12
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