“映画館でかけるべき映画”を作り手たちは考えないといけないーー三宅唱が2010年代を振り返る

三宅唱が2010年代を振り返る

映画館でかけるべき映画

――近年は、いわゆるYouTuberの活躍が目覚ましかったり、TikTokのような動画アプリが流行したり、さらには配信サービスが登場するなど、映像表現のアウトプットは広がるばかりです。そういう中で、三宅監督は、何が「映画」を「映画」たらしめていると思いますか?

三宅:なんだか最初の話に戻ってしまうようですが、やっぱり映画館という場所が重要だと思います。映画館でしか経験し得ないものは確実に存在するので、自分が映画を作る際には、そこに敏感になりたいなと考えています。

――「映画館だからこそ味わえるもの」というのを、もう少し具体的に言うと?

三宅:暗闇と、大きなスクリーンと、音響設備と、他のお客さんの存在ですかね。昨年はじめてビデオインスタレーション作品を発表するとなった時に色々と空間について考えていたんですが、改めて映画館という装置の面白さを実感しました。どんな作品も同じ環境で同じ値段で平等に観られるし。

――確かに、どんな映画も、映画館でかけることを前提にして作られているという意味で、非常にコンペティティブではありますよね。

三宅:そうあるべきだと思います。とは言え、今はそうでもないかもしれない。劇場でかかる作品がすごく増えて、言ってしまえばちょっとなんでもアリになっている。上映プログラムが新作でパンパンになっていて、観る側も全然追いつかない。自分の映画が映画館に救われておいてこんなことを言うのもなんですが、劇場でかかる作品はこれから淘汰されるだろうな、と。劇場にかけるべき作品とそうでない作品に分けられるというか。そこの淘汰は自然に起きると思いますし、そうなるべきだなって個人的には思います。これからの世代の人たちには申し訳ないですけど。

――なるほど。

三宅:好き勝手に言いますが、配信という新たなフォーマットもできて、別に「映画館」が上とか考える時代でもないと思います。経済的にもそうです。シンプルに、視聴体験をマックスにすることに絞って考えて、「これは映画館でかけるべきか、あるいは配信でも十分面白いか」だとか、「映画館でかけるべき映画とはどんな映画なのか?」ということを、映画館側も作り手側も考えないといけない。すでに皆考えていると思いますけど、それがより明確になったほうが面白いんじゃないかなとは思いますね。そうじゃないと映画館という特別な空間がもったいないことになる。

――それこそ、三宅監督自身はどうなんですか。2019年は、ビデオインスタレーションの発表もありましたし、2020年には、配信で『呪怨』のドラマシリーズを発表するわけで。

三宅:ビデオインスタレーションをつくり、配信作品にも関われたことで、逆にと言うべきか、「映画館でかける映画はこうありたい」っていうのが見えてきたところがあります。具体的には言えませんが。

 役者と監督でどう映画を作っていくか

――さて、ここからは、少し話題を変えて……2010年代で、三宅監督が印象に残っている映画と言ったら、どんな映画になるでしょう?

三宅:2012年にトニー・スコット監督が亡くなりましたが、彼の遺作の『アンストッパブル』(2010年)以上に夢中になった映画はなかった気がします。アクション映画でいえば、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)は好きでずっと観てきました。あとは、やっぱりトム・クルーズ最高ですね。マーベルヒーローVSトムの時代だったなと。

――ちょっと意外な気もしますが、アクション映画とかアメコミ映画がお好きなんですね。

三宅:『ミッション:インポッシブル』シリーズ(『ゴースト・プロトコル』(2011)、『ローグ・ネイション』(2015)、『フォールアウト』(2018))は毎回初日に映画館に行っています。アメリカ映画でいえば、イーストウッド、スピルバーグ、ロバート・ゼメキスの新作も常に面白かった。あとは、先程も話しましたが、ラブコメ映画のいろんな新作。ジェームズ・L・ブルックスの『幸せの始まりは』、リース・ウィザースプーンと、オーウェン・ウィルソンやポール・ラッドが出ているロマンチックコメディなんですけど、これは超傑作でした。2010年代のベストって言われたら、まず『アンストッパブル』と『幸せの始まりは』から考え始めます。

――なるほど。いずれも、三宅監督が撮られている映画とは、かなりテイストが違うような気も……。

三宅:ははは、それよく言われるんですよ(笑)。あとはやっぱりドキュメンタリー映画が思い浮かびます。『アンストッパブル』も『息の跡』も自分の中では同じ棚に並んでいて、「救われたなあ」というか、どちらも自分の人生の指針になるような映画ですね。先ほど挙げた映画以外では、幸運なことに本人にインタビューする機会もあったフランスのギヨーム・ブラック監督の最新作である『宝島』(2018)が最高でした。あとリチャード・リンクレイターの映画も僕にとっては大きいですね。色々挙げられますが、とは言え結局、2010年代は自分の監督作で必死だったかな……。

――そうですよね(笑)。では最後に、今後の展望として2020年代の映画に期待することを。

三宅:映画を作るのは映画館だと言う話を前半でしておいてなんですが、「映画は役者が作る」ということも自分は忘れずにおきたいです。いち映画ファンとしてはフレッシュで魅力的な人をスクリーンで観たいし、自分もそういう仕事をしたいですね。才能ある若い役者が今たくさんいると思っていて、彼らと仕事をするに値する脚本や企画を書かねばと毎日焦っています。これから10年への期待……言うべきこととか考えるべきことは今の世の中いろいろとあると思うんですが、自分の仕事はとにかくそこからだよな、という感じです。

(取材・文=麦倉正樹)

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