オリヴィエ・アサイヤス監督、映画と出版業界を語る 「バーチャルなものと共存して残っていく」

『冬時間のパリ』O・アサイヤスがトーク

 『冬時間のパリ』のスペシャルトークイベント付き試写会が、12月2日にアンスティチュ・フランセ東京にて開催され、オリヴィエ・アサイヤス監督、樋口泰人(映画批評家/boid 主宰)、坂本安美(アンスティチュ・フランセ日本の映画プログラム主任)が登壇した。

 樋口は、本作の感想について、「『冬時間のパリ』は、新しい映画を観たという感じです。登場人物はみんな中年なんだけれど、例えば日本の若い才能のある監督たちが撮った群像劇のようにも見える。その新しさ、どうしてそう見えるのか考えたいと思いました。アサイヤス監督は30年以上のキャリアをお持ちですが、彼にとっては初めてのコメディ映画だと言ってもいいのではないでしょうか」と語り、続けて「あなたの長いキャリアの中で『冬時間のパリ』はどういった意味を持つのでしょうか」とアサイヤス監督に質問。

 アサイヤス監督は樋口の質問に対し、「コメディ映画にするという意図は最初から明確にあったわけではなかった。脚本を書き続けてようやく出来上がったときに、この作品はコメディとして位置づけられるのではないかと考えたのです。今回シナリオはシーンごとに書き進めていったのですが、自分自身がこの作品のプロセスを少しずつ発見していきました。これまではシーンで有用性みたいなことを考えながら書いていましたが、今回は非常に喜びに溢れ、楽しみながら各シーンを書き進めていきました」と制作の舞台裏を明かした。

 また、「10年周期で関係性がある作品を作っている印象がある」という樋口の指摘に対しては、アサイヤス監督は「私は映画監督として、今自分が生きている世界のことを語りたいという欲求があるんです。映像で語ることによって、それがその世代を描いた作品になるという、そういう気持ちで映画を撮っています。だから、次の10年後には、世界が撮るに値するぐらい変わっていてほしい。自分自身でも説明がつかないのですが、時を経るごとに歳を重ねるごとに、どんどん作品の中のトーンが光の方へ、そして愉快なものへと導かれているような気がします」と答えた。

 役者陣へのアドバイスはしたのかという樋口の質問には、「まったくその逆です。感情面がとても重要なシーンであればあるほど、私からアドバイスやヒントを出すことは一切ありません。なぜなら、彼らが演じる際に表れてくるものは彼らの自発的な感情であってほしい。こうしてほしいというような無理強いをする演出方法は好みません」と自身の演出方法を強調したアサイヤス監督。坂本も「『冬時間のパリ』は感情が先にあって、それを言葉にしているというよりも、言葉が感情を引き出しているというように言葉の力を感じますよね」と付け加えた。

 本作のテーマのひとつである出版業界のデジタル化に関して、自身で本やCDを発売している樋口は、「自分の書籍なども含め、スマホで読まれるということをどう思っていますか?」とアサイヤス監督に問いかける。その質問に対し、アサイヤス監督は「実は、今でもちゃんと、紙の本を読み続けている人々は多いのです。電子書籍は思ったよりも普及していないように思えます。本は消えていくのか? 私はそうは思いません。楽観的な考えかもしれませんが、書籍としての本は残り続けるだろうし、映画もちゃんと映画館で観られていくのです。そういったフィジカルな存在は、このデジタル革命の中でも消えずに、バーチャルなものと共存して残っていくと確信しています。私自身、まだベルイマンやブレッソンのブルーレイディスクを棚に並べて、その隙間を埋めていく喜びを持っています。たとえ、デジタル化すれば、その半分以下のスペースで済むのだとしてもね」と出版業界と映画についての想いを述べ、トークイベントは幕を閉じた。

■公開情報
『冬時間のパリ』
12月20日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
撮影監督:ヨリック・ル・ソー
製作:シルビー・バルト、シャルル・ジリベール
出演:ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー
配給:トランスフォーマー
協力:東京国際映画祭
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
2018年/フランス/フランス語/107分/原題:Doubles Vies/英題:Non-Fiction/日本語字幕:岩辺いずみ
(c)CG CINEMA/ARTE FRANCE CINEMA/VORTEX SUTRA/PLAYTIME
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/Fuyujikan_Paris/

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