映画プロデューサー北島直明が語り尽くす、『町田くんの世界』の手応えと日本映画の実情

北島Pが語る『町田くんの世界』の裏側

「“日常の崩壊”が、ひとつの共通したテーマ」

ーー実際、完成した映画を観て、北島さんはどんな感想を持ちましたか?

北島:うーん、何だろうな……面白いとか頑張ったとか、そういう感情すら超えて、大げさなことを言うと、「あれ? 日本映画の歴史を動かしちゃったんじゃない?」みたいな感覚が、ちょっとあったかもしれないですね。映画を作っている人は、みんな日本映画を動かしてやろうと思って作品を作っていると思うんですけど、それを実感できたところがあったので。

ーー確かに、物語の設定やあらすじから、その座組に至るまで、かなり変化球的な作品ではあると思っていて……ただ、実は“王道青春映画”と言ってもいい映画ではありますよね。

北島:ホントそうですよ。いろいろ自由にやらせてもらいましたけど、だからと言って別にすごい変わった映画というわけではなく、やっていることは至って王道なんですよね。主人公である町田くんが、いろいろと波風を起こして、それによってまわりの人たちが変わっていく。で、それがまた合わせ鏡のように反射して、町田くんに返ってくるっていう。そういう意味では、意外と普通の作りにはなっているので。

ーーその中心には、いわゆる“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語があるという。それを非常にフレッシュなものとして観ることができたのが、実はいちばんの驚きだったかもしれないです。

北島:それはやっぱり、さっき言ったように、主演の2人に何も色がないからだと思うんですよね。彼らが成長していく感じがわかるというか、どんどん色づいていく感じが、映画を観ていてわかるじゃないですか。

ーーそういう意味では、ドキュメンタリー的な面白さもありますよね。

北島:そうですね。彼らの行動は、ある意味読めないですから(笑)。でも、どんどん良くなっている感じは観ていてわかるというか、極端なことを言えば、髪の毛の質感すら変わっていっているように思えるっていう。

ーーちなみに、北島さんは、この『町田くんの世界』をはじめ、『ちはやふる』三部作や『キングダム』など、これまで実に幅広い作品を手掛けてきたわけですが、それらの映画に共通するものって、何かあったりするんですか?

北島:それはもう、明確にあります。“日常の崩壊”なんです。それが、僕のなかでは、ひとつの共通したテーマになっているんですよね。そもそも、映画は非日常を楽しむものなんですけど……。だから、僕が手掛けてきた作品は、“日常の崩壊”のシーンがより強調されているんです。たとえば、僕が最初にやらせていただいた『藁の楯』は、主人公である大沢たかおさんが、最初は自分とまったく関係ないと思っていた事件に、直接関わることになることから始まる物語で、その瞬間に、彼の日常は崩壊していくわけです。で、『オオカミ少女と黒王子』も、二階堂ふみさん演じる主人公が喫茶店でお茶をしているところに、たまたま山崎賢人くんが現れて、そこであの2人の日常が崩壊するんですよ。だから、あのシーンは、超長回しで撮っている。『ちはやふる』も、そうですよね。あの映画は、野村周平くん演じる“太一”の目線で描いていて、彼が屋上にいるところに、広瀬すずさん演じる“千早”が、バッと飛び込んでくるじゃないですか。あの瞬間、スローモーションになっているんですけど、そこがあの映画の“日常の崩壊”なんです。それと同じように、この『町田くんの世界』では、保健室のシーンですよね。そこで町田くんと猪原さんの日常が崩壊するっていう。そこは全部共通しているというか、それはもう、僕のなかではひとつ、明確なテーマとしてあるんですよね。

ーーなるほど。劇場公開作で言えば、これからフルCGアニメーション映画『ルパン三世 THE FIRST』、そして年明けには、『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』以来の再タッグとなる入江悠監督の『AI崩壊』と北島さんのプロデュース作が続いていくわけですが、昨今の日本映画の状況を見て、北島さんは何か感じるところがあったりしますか?

北島:ひとつ明確にあるのは、確かなものしか当たってないってことですよね。たとえば、『町田くんの世界』と公開日が同じだった『アラジン』とかって、観る前から面白そうだし、お馴染みのキャラクターだから安心な感じがするじゃないですか。『マスカレード・ホテル』とかもそうだし、原作モノ、続編とかリメイクとかも同じですよね。知っているものだから、それなら間違いないだろうっていう。今はそういうものが、お客さんに求められているんでしょうね。その一方で、『翔んで埼玉』のような、これを観たら間違いなく「笑える」とか、そういう分かりやすい作品がウケていて……。

北島直明プロデューサー

ーーなるほど。

北島:あとは、もうこれは、ここ2、3年の話ではありますけど、いわゆる“デート・ムービー”とかではなく、“イベント・ムービー”みたいなものが、当たっていますよね。それを観ることによって、何かに参加するような……それってつまり、“共感性”というか、“共有性”だと思うんです。それはある種、SNSみたいなものと関係しているのかもしれないですけど。この映画を観たということを、SNSで報告することによって、それを共有した感じになるっていう。

ーーそういう状況のなかで、北島さんは、今後どんな映画を作っていこうと思っているんですか?

北島:これからですか? うーん……難しい質問ですね(笑)。ただ、ひとつ今、漠然と考えているのは、“なんかヤバそう”っていうのを、ちょっとテーマにしていきたいなっていうことで。“ヤバそう”って言っても、大量殺人だったり、悲惨な事件を描きたいというのではなく、世界のニュースとかを見ていても、「なんかヤバそうだな……」みたいなものってあるじゃなですか。たとえば、今だったら、香港の暴動とか。そういう、なんかヤバそうな世界に観客を連れていくような映画を作りたいかなっていう。終わっちゃいましたけど、『クレイジージャーニー』(TBS系)とかも、そうだったじゃないですか。みんなが知らないヤバい世界を見せてくれるっていう。何かそれが、共感ワードのひとつになっていくんじゃないかなっていうのは、ちょっと思っているんですよね。

■北島直明 
映画プロデューサー。徳島県出身。
『桐島、部活やめるってよ』のアシスタントプロデューサーを経て、『藁の楯』でプロデューサーデビュー。
その後、『ちはやふる』シリーズを手掛け、『22年目の告白-私が殺人犯です-』では、エランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞。
他にも『キングダム』『オオカミ少女と黒王子』『斉木楠雄のΨ難』『50回目のファーストキス』『町田くんの世界』など。
公開待機作に山崎貴監督最新作『ルパン三世 THE FIRST』(2019年12月6日公開)、
入江悠監督最新作『AI崩壊』(2020年1月31日公開)、福田雄一監督最新最新作『新解釈三國志』(公開日未定)がある。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。

(取材・文=麦倉正樹/写真=宮川翔)

■リリース情報
『町田くんの世界』
11月6日(水)Blu-ray&DVD発売、レンタル同時リリース

<Blu-ray>
価格:4,800円+税
1枚組・本編+特典映像
片面2層/カラー/ビスタサイズ(16:9)/音声:1.日本語DTS-HD Master Audio 5.1h 2.日本語リニアPCM 2.0ch 3.バリアフリー日本語ガイド/NTSC日本市場向/バリアフリー日本語字幕

<DVD>
価格:3,800円+税
1枚組・本編+特典映像
片面2層/カラー/ビスタサイズ(16:9)/音声:1.日本語ドルビーデジタル5.1h 2.日本語ドルビーデジタル2.0ch 3.バリアフリー日本語ガイド/NTSC日本市場向/バリアフリー日本語字幕

特典映像(Blu-ray・DVD共通):
メイキング、舞台挨拶、予告編&スポット集

※仕様・特典などは予告なく変更になる場合がございます。あらかじめご了承下さい。

出演:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、仲野太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子
監督:石井裕也
脚本:片岡翔、石井裕也
主題歌:「いてもたっても」平井堅(アリオラジャパン)
原作:安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社マーガレットコミックス刊)
製作幹事:日本テレビ放送網
制作プロダクション:CREDEUS
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)安藤ゆき/集英社 (c)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会
公式サイト:machidakun-movie.jp
公式Twitter:@MachidakunMovie
公式Instagram:@machidakunmovie

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