映画プロデューサー北島直明が語り尽くす、『町田くんの世界』の手応えと日本映画の実情

北島Pが語る『町田くんの世界』の裏側

「まずは監督で、次に脚本」

ーーそして、石井監督で撮ることになり……次は、キャスティングですか?

北島:いや、まずは脚本ですね。僕の場合、すべての作り方がそうなんですけど、まずは監督で、次に脚本なんです。キャスティングから決めるっていうのはゼロですね。脚本がないと、キャスティングのしようがないと僕は思っているので。もちろん、この役者さんと仕事をしたいから、こういう企画を出そうみたいな考え方もあるとは思うんですけど、僕の場合は、まず監督で、次に脚本なんです。

ーーでは、監督と脚本を詰めていって……。

北島:そうですね。監督と、あと共同脚本の片岡翔さんとある程度脚本を固めていって、それからキャスティングに入るんですけど、主演の2人はオーディションにしたいなっていうのは、もう最初から明確に決めていたんですね。なぜなら、この映画の主人公は、特殊な2人だから。恋を知らないキャラクターの人間が、認知度高い人気俳優とかだったら、「ん?」ってなるじゃないですか。そうではなく、なるべくパブリック・イメージのない人、色のない新人を選びたいなと思っていたので。

ーーしかも、年齢的に若い役者を……。

北島:そう。それは、以前僕がやった『ちはやふる』のときもそうだったんですけど、この映画の主人公とヒロインには、その年齢のときにしか出せないエネルギーみたいなものが、絶対に必要だなと思ったんです。それは、もとを遡れば、『桐島、部活やめるってよ』のAP時代に感じたことでもあって……。

ーーなるほど。

北島:あの映画の撮影当時、神木(隆之介)くんは高校三年生で、(山本)美月がちょっとお姉さんだったけど、まだ出始めの頃で、大学生とかだったので。というか、あのエネルギーを目の当たりにして、そのあと『ちはやふる』をやったら、もう戻れないですよね(笑)。なので、今回の主演の2人は、若い役者にしたいなって思って。で、そしたら監督が、「じゃあ、その2人をより際立たたせるために、まわりは手練手管の役者で固めましょう」って言って……それで監督から名前が挙がったのが、前田敦子、岩田剛典、(仲野)太賀、高畑充希という、この4人だったんですよね。

ーーその4人は、監督ご指名の4人だったんですね。

北島:そうなんです。で、この4人はみんな20代後半だったんですけど、芝居の力で高校生を演じるっていう、非常に難しいことをやってもらって。だから、4人ともつらそうでしたよ(笑)。それは、外見が高校生に見えるかどうかではなく、監督から提示されたミッションが、「高校生の芝居をしてください」っていうことだったから。となると、「そもそも、高校生って何だっけ?」ってなるじゃないですか。

ーー確かに……。

北島:で、たとえば、太賀が見つけたひとつの答えは、“拠り所のなさ”だったんですよね。高校生って、そういうところがあるじゃないですか。まだ、自分というものが完成されてないから。だから、映画のなかの彼は、ずっとソワソワしているんですよね。で、前田敦子さんは、彼女は彼女で、存在感を消しつつ、ちゃんと俯瞰で全体を見ている女子高生を、ちゃんとやるんだと。で、高畑充希は、憑依型の芝居を、そこにガッと持ってくる。で、岩田くんは、もう真正面から細田(佳央太)くんと向き合うしか、たぶん自分の立ち位置はないなと言って、そういう芝居をして。というように、それぞれがそれぞれの役に対するアプローチをしっかり定めた上で、現場に臨んでいるんですよね。そうやって彼らがしっかりした芝居をするから、主演の2人が、より異質に見えてくるっていう。その計算は、すごく良かったと思いますね。

ーーで、先ほどから何度も話題に出てきている主演の2人ーー細田佳央太くんと関水渚さんですが、この2人を選んだ理由は、それぞれどのあたりにあったのでしょう?

北島:細田くんにいちばん最初に引っ掛かったのは石井さんでした。入ってきた瞬間、「ん?」っていう感じがあったみたいで。僕も「おっ?」って思ったんですけど、石井さんよりも浅い感じで。というか、今の若い役者さんって、みんな髪型が同じだったり、みんな手足が長くてスラッとしていたりで、逆にみんな、あまり個性がないんですよね。そういうなかで、細田くんは、ちょっと骨太な感じで、目がグッと決まっていて、声もよく出ていて。そういう意味では、すごく異質だったんですよね。で、関水さんに関しては、驚かされたっていうのが大きいですかね。これはいろんなところで言っているんですけど、関水さんは、オーディションの部屋に入ってきた瞬間に、いきなり泣き始めたんですよ。

ーーああ……。

北島:たまにいるんですよ。緊張して泣いちゃう子って。でも、今回は、あまねく新人にチャンスを与えたいというか、映画の世界は人気者だけが連投する世界ではなく、才能とチャンスがあれば、いい役が掴める世界だっていうのが、ひとつテーマとしてあったので、泣いてるから落とすのではなく、「落ち着いたら、もう1回入っておいでよ」って言って、2回目入ってきたら、また泣いていて……。

ーーあらら……。

北島:で、実は3回目も泣いていたんですけど、まあ、とりあえずお芝居しましょうかって、演技をしてもらったら、それがビックリするようなお芝居だったんですね。ちょっと僕が想像してない台本の読み込み方をしてきていて。

ーーというと?

北島:そこでは、町田くんが夜家に帰ってくると猪原さんが待ち構えていて、「遅かったな、町田。で、どうなってんの?」という、町田くんの家の前で、2人が言い合うシーンをやってもらったんです。あの部分って、台本上で読むと、いきなり猪原がキャラ変を起こしていて、ちょっと意味が分からない、支離滅裂なシーンにしか、僕にはどうしても読めなかったんですね。それまでは「町田くん」って呼んでいたのに、急に「町田」って呼び捨てにしているし、「はあ? いよいよわけがわからなくなってまいりました」とか、変な言い回しでしゃべっていて。

ーー(笑)。猪原さんが、かなり挙動不審なシーンではありましたよね。

北島:だから、「これ、全然わからないわ」って思っていたんですけど、彼女がその芝居を明確に出してきたんです。ただ怒っているだけじゃなくて、不安とかいろんなものを混ぜ込んだ感情をそこにもってきて。で、もうひとつ、オーディションでやってもらったのが、猪原さんが、「町田くんには、何が見えてるの?」って言う最後のプールのシーンだったんですよ。そこで彼女が、またすごくいい芝居をしてきて……思わず僕、泣きそうになっちゃいましたから。だから、最初の印象と実際に芝居をしたときのギャップですよね。

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