音楽やダンスと同じ構造!? 『CLIMAX クライマックス』は観客を「今、この瞬間」へと没入させる

音楽やダンスと同じ構造!? 『CLIMAX クライマックス』は観客を「今、この瞬間」へと没入させる

 また、打ち上げのシーンではM / A / R / R / S(マーズ)の「Pump Up The Volume」など懐かしい曲にテンション上がるのも束の間、パーティーが次第に狂想を帯びていくシーンでは、『アレックス』『エンター・ザ・ボイド』に続いて3度目のコラボとなるトーマ・バンガルテルの「What To Do」や、ダフト・パンクの「Rollin’ & Scratchin’」、エイフェックス・ツインの「Windowlicker」によるビートや旋律が、観客の不安を掻き立てる。そしてジョルジオ・モロダーの「Utopia-Me Giorgio」が流れる中、映画は目を覆いたくなるような結末へ。夜が明け、全ての惨状が明るみになるシーンでは、ローリング・ストーンズの「Angie」(インスト・ヴァージョン)が悲しく鳴り響くのだった。

 カメラワークも、ダンサーが踊るシーンを上空から撮影するという『エンター・ザ・ボイド』でも用いた手法を取ったり、冒頭のリハーサルシーンではまるで『ラ・ラ・ランド』(2016年)のように、入り乱れるダンサーの踊りをワンカットで収めたりと、徹底的に俯瞰的な構図で彼らの身体性を追っている。ところが、LSDが効き始めたあたりからカメラは手持ちに切り替わり、画面がグラグラ揺れたり、天井と床が逆さまになったり、平衡感覚が狂っていく様をカメラワークでも表現しているのだ。

 それにしても、最初のインタビューシーンで「故郷ベルリンでドラッグが蔓延しているのには嫌気がさした」「私はクリスチーネ・Fになんてなりたくない」などと話していた女の子が、いち早くトリップして立ったまま床に放尿するシーンには、さすがに気が遠くなった。ちなみにこの子の名前プシュケ(Psyché)は、サイケデリック(Psychedelic)の語源の一つになった「魂」「精神」という意味。クリスチーネ・Fとは、1981年に公開された西ドイツ映画『クリスチーネ・F 〜麻薬と売春の日々〜』のことで、ドラッグや売春に溺れていく女性を描いたこの作品には、デヴィッド・ボウイが本人役で出演していた。

 さて、ダンサーたちのインタビューがテレビのモニターに流れるシーンでは、テレビの横に映画のVHSテープや本が積まれており、その背表紙を見ると『サスペリア』(1977年)や『ポゼッション』(1981年)、『自由の代償』(1975年)、『切腹』(1962年)などが確認できる。例えば「閉ざされた空間で、人々が本性をあらわにしていく」というプロットや、妊娠しているダンサーが自らの腹にナイフを突き立てるシーン、鮮血のように赤い照明など、ひょっとしたらここに積まれている映画や本が、『CLIMAX クライマックス』のインスピレーション元になっているのかも知れない。

 果たして「ドクター・ロバート」はいったい誰だったのか。それは是非とも劇場で確認していただくとして、鬼才ギャスパー ・ノエの新作『CLIMAX クライマックス』は、観客から過去や未来という時間軸を奪い去り、平衡感覚をも失わせて「今、この瞬間」へと没入させていく、音楽やダンスと同じ構造を持った映画なのである。

『CLIMAX クライマックス』予告編

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

■公開情報
『CLIMAX クライマックス』
11月1日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ソフィア・ブテラ、ロマン・ギレルミク、スエリア・ヤクーブ、キディ・スマイル
配給:キノフィルムズ/木下グループ 
2018/フランス、ベルギー/スコープサイズ/97分/カラー/フランス語・英語/DCP/5.1ch/日本語字幕:宮坂愛/原題:CLIMAX/R-18 
(c)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
公式サイト:http://climax-movie.jp/

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