『ジョーカー』と『テッド・バンディ』が共有するテーマとは 米史上最大の悪は私たちのすぐそばに

『テッド・バンディ』が暴く内に潜む悪

 そのように考えると、シリアルキラーは生まれながらの悪魔というわけではなく、われわれの内面にも存在する可能性があり、殺人や凶悪犯罪を犯すことのなかった人間というのは、たまたまそれが目を覚まさなかっただけということになる。境遇の異なる“われわれ”が襲いかかってくるという内容のホラー映画『アス』(2019年)もまた、このような根源的恐怖を描いた社会派作品の面を持っている。

 アメリカの銃乱射事件や、日本でも無差別的な殺人事件が起こる背景には、経済格差の悪化や、新しく多様な価値観が認められていく社会情勢の変化のなか、保守的な従来の幸福の概念から外れ、存在意義を揺るがされている人々が増加している状況が指摘されている。

 女性に人気があるエリートだったバンディは、一見そのような分析からは外れている印象を受ける。だが、じつは彼は過去に、ある女性に拒絶された経験があり、後に彼女に復讐をしたという事実から分かるように、彼女や、ひいては女性そのものに対して強烈な憎悪やコンプレックスを抱いていたのではないかといわれている。そして、共和党員として政治活動をしていたことから、女性観に対しても古い考えを持っていたのではないかという見方がある。バンディが犯行を繰り返したといわれる当時は、ちょうど女性の社会進出が進み、女性が一人で行動をしたり旅をすることが増えてきた時代だった。そして皮肉にも、そのことが女性をターゲットにする犯罪者には都合が良かったのだ。

 近年、このようなテーマを描いた作品が連続しているというのは、社会の変化から生じる事件が、現実の至る場所から噴出し始めていることを意味するのではないだろうか。そして、本作『テッド・バンディ』の最大の恐怖とは、これまで無意識のうちに見ないようにしてきた、われわれ自身のなかに住む“彼”を見つけ、社会のなかに潜む無数の“彼”の存在に気づいてしまうことなのではないかと思われるのだ。その意味で、本作は、まさにいまの社会を映し出す作品だといえよう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『テッド・バンディ』
12月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
原作:エリザベス・クレプファー『The Phantom Prince: My Life With Ted Bundy』
脚本:マイケル・ワーウィー
監督:ジョー・バリンジャー
出演:ザック・エフロン、リリー・コリンズ、カヤ・スコデラリオ、ジェフリー・ドノヴァン、アンジェラ・サラフィアン、ディラン・ベイカー、ブライアン・ジェラティ、ジム・パーソンズ、ジョン・マルコヴィッチ
提供:ファントム・フィルム、ポニーキャニオン
配給:ファントム・フィルム
原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile/R15+
(c)2018 Wicked Nevada,LLC
公式サイト:http://www.phantom-film.com/tedbundy/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる