『天気の子』はアカデミー賞を受賞できるのか? これまでの傾向とほか候補作品から可能性を探る

『天気の子』はアカデミー賞を受賞できるか?

 だからと言って『天気の子』がアカデミー賞と無縁になるのかと言われれば、それもまた違う。「国際長編映画賞」での可能性は低くとも、「長編アニメーション賞」では限りなくノミネートまでたどり着くだけのポテンシャルを秘めているからだ。まだ長編アニメーション賞のエントリー作品は固まっていないが、今年の同部門はピクサーの『トイ・ストーリー4』の独壇場となると言われている。必然的に他の作品は残る4枠を目掛けて争うことになるわけだが、そこには前作が受賞を果たしたディズニーの『アナと雪の女王2』、過去2作が続けてノミネートされているドリームワークスの『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』、これまで発表した長編作品すべてが同部門にノミネートされているライカが送り出す『Missing Link』、アニメーション表現の豊かさで圧倒的な支持を集めるアードマンの『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー』と、もはや一縷の希望を信じる作品には絶望的なほど強力な作品がひしめきあっている。

 一昨年のルール改正によって、それまではアニメ分科会に属する会員のみがノミネート投票の権利を有していたのが、全会員にノミネート投票の権利が生じたことによって、大きく傾向が変わると噂され、海外アニメに不利になるとの声があった。しかし蓋を開けてみれば『ゴッホ 最期の手紙』がノミネートされたように、純然とした作品の評価がなされていただけでなく、不利とされていた続編作品や昨年受賞を果たした『スパイダーマン:スパイダーバース』のようなタイプの作品にもチャンスが広がり、アニメーション全体に対してより幅広い知見で評価が下されることになったのである。そうなれば、前述した5作品のうち続編作品である4作品が安泰になってしまうわけだが、作品が認められさえすれば決して外国語作品だからといって不利になることはない。しかも、『Missing Link』が春に公開されて興行的に大失敗を喫し批評家からの評価も伸び悩んだことでノミネートへ黄信号が灯ってしまったともあれば、より激戦となり1枠以上が空く可能性はさらに高まる。

 そうなると、昨年の『未来のミライ』をはじめ10年間で外国語アニメ12作品をノミネートに導いてきたGKids配給作品の出番だ。今年GKidsが擁している作品は『天気の子』と『海獣の子供』、『きみと、波にのれたら』、『若おかみは小学生!』『プロメア』の日本映画5タイトルに、クメールルージュを題材にしたフランス映画『Funan』、そして国際長編映画賞のスペイン代表の最終選考まで残っていた『Bunuel in the Labyrinth of the Turtles』など。国際長編映画賞の日本代表になったことを鑑みれば、『天気の子』は他の日本アニメより一歩リードしていると判断できる。あとは強力なヨーロッパアニメ2作品とどう競い合うかにかかっている。ノミネートまでたどり着き、さらにこれまでの傾向通り続編映画が受賞に届かない(初長編だった『ウォレスとグルミット』は例外として、『トイ・ストーリー3』以外すべて受賞を逃している)ということになれば、大逆転受賞もゼロではないだろう。

■久保田和馬
久保田和馬 1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど Twitter

■公開情報
『天気の子』
全国東宝系にて公開中
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/

■配信情報
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』
Netflixにて、独占配信中
公式サイト:https://www.netflix.com/roma

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる