『ルパンの娘』煌びやかさの裏にあったノスタルジックな哀愁 物語を支えた心優しき“影の存在”たち

『ルパンの娘』を支えた“影の存在”たち

 もう1人は、「感情を五七五でしか表現することができない」岸井ゆきの演じるエミリである。「満たされる あなたといれば まんぷくだ」というまさかの五七五が飛び出したように、彼女が朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)においては瀬戸康史に一心に愛される妻だったというドラマの物語には、全く関係ないが視聴者の多くが思わずにいられない暗黙の「皮肉な運命」がそこに含まれていた。だから余計に、婚約者でありながら片想いであり続ける関係性の切なさが際立つ。恥ずかしいから見ないでと言いつつ、「見てください 私のことも 見てください」と言わずにはいられない6話の恋のもどかしさに、10話の結婚式における、華の登場で、ものの見事に吸い込まれていく和馬の目線が哀しい。ここにきてエミリへの疑惑が浮上しているが、彼女の祖父・英輔(浜田晃)による陰謀にその純情な恋心を利用されてしまったのだと信じたい。 

 最後の1人は、世界を股にかける泥棒であり、華の幼なじみである大貫勇輔演じる円城寺輝。彼は、「感情を歌でしか表現することができない」から、その明るさがなんだか切ない。しかもそれでいて告白という「マジなヤツ」ではなぜか歌えないジレンマは、エミリの「恥ずかしくて顔を見てほしくないけど、見てほしい」ジレンマに似て厄介だ。常に颯爽と登場し、華を中心とした登場人物の心情を歌い上げ、「ブラボー」と微笑んで去っていく円城寺は爽やか過ぎて人間というより、人の心に寄り添う妖精のようだが、彼もまた、幼少期に泣いている華を慰めるために「僕が傍にいるよ」と歌い誓った思いを変えることはなく想い続ける「いつだって華ファースト」の男なのである。

 また、感情どころか、強烈な個性でドラマ全体を支配しているのに関わらず、なかなか登場しないという意味では一番制約のある人物かもしれない、麿赤兒演じる華の祖父・巌も彼らと同じだと言える。和馬の祖父・和一(藤岡弘、)との悲恋の一部始終を知りながらマツと結婚し、彼女が何者かに傷つけられた過去に責任を感じ続け、あの通りを歩いていたら目立ちすぎるだろう股旅スタイルで60年犯人を捜し続けたというのは、尋常じゃない健気さである。


 好きな人の悲恋を知りつつ、「彼を想いつづける華ごと受け止める/あの人を想いつづけるあなたごと受け止める」強さは、9話において華と和馬それぞれにプロポーズする円城寺とエミリも同じである。

 「花婿を盗む」という最高にカッコイイ盗みをやってのけた「Lの一族」は、60年前から続く哀しい運命の連鎖を断ち切り、運命を乗り越えることができるのか。そして、正統派(?)ヒーロー・ヒロインの裏で、なにかしら越えられない壁が多い、不器用で愛すべき、優しい彼らの幸せを祈ろう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
木曜劇場 『ルパンの娘』
フジテレビ系にて毎週木曜 22:00~22:54放送
出演:深田恭子、瀬戸康史、小沢真珠、栗原類、どんぐり、藤岡弘、(特別出演)、
加藤諒、大貫勇輔、信太昌之、マルシア、麿赤兒、渡部篤郎
原作:『ルパンの娘』 横関大(講談社文庫刊)
脚本:徳永友一
プロデュース:稲葉直人
監督:武内英樹
制作・著作:フジテレビ 第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/Lupin-no-musume/

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