林遣都の泣き続ける横顔が忘れられない “敗者”を描く『いだてん』に込められたもの
リレーを辞退した大横田が臨んだ400m自由形。アナウンサーの河西(トータス松本)による「実感放送」で、大横田のレースの様子が伝えられた。大横田は体調が万全ではない中で健闘を見せるも、レース終盤で思うように体が動かせなくなる。結果は3着、銅メダルだった。実感放送中、河西の横でレースを再現する大横田だったが、悔しさや怒り、悲しみが入り混じった表情を浮かべ、立ちすくんでしまった。その目には涙がにじむ。マイクの前で泣いて謝る大横田。
「試合に出られない者もいる中で、自分は恵まれていました。それなのに、肝心な時に、大きな一個も得られず、すみませんでした」
涙を堪えきれない大横田の姿を見つめることしかできない政治と、「もういい!もういい、喋るな!」と止めに入る高石の描写が切ない。河西のアナウンスにもあったが、大横田の泳ぎは堂々たるものだった。しかし金メダルを目指していた選手にとって、銅メダルに終わるという結果はとてつもなく悔しいものなのだろう。林はその悔しさを、涙に濡れた表情で見事に表現していた。高石に抱きとめられながら泣き続ける大横田の横顔は忘れられない。
また、落語になぞらえた演出も印象的だ。今作で起きた「腹痛」というハプニングは、古典落語『疝気の虫(せんきのむし)』になぞらえて描かれた。腹痛に苦しむ大横田の手元や前畑(上白石萌歌)の横で蠢く「虫」の姿。この「虫」の存在がハプニングの不穏さを醸し出す一方で、柄本時生演じる万朝のコミカルな話し口が、物語をテンポよく進めることで笑い話へと変えていく。これまで幾度となく不穏な出来事が描かれてきた。これからは戦争の匂いも強くなることだろう。だが、この物語に落語が加わることで、不穏さと笑いのバランスがとれ、物語が重くなりすぎない。今作の語り部である志ん生(ビートたけし)、考蔵(森山未來)、五りん(神木隆之介)による落語に今後も注目だ。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/