フィルムコマや「ONE PIECE 0巻」など、“入場者プレゼント”は映画館に何をもたらしたか

入場者プレゼントは映画館に何をもたらしたか

映画館側は入プレに依存してはいけない

 他にもとんでもない成果を上げたのには『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の入プレ「ONE PIECE 0巻」なんてのがありました。ジャンプコミックスの装丁そのままという抜群のアイディアで、それを求めて連日満席連発のとてつもない混雑になったものです。あれはファンなら誰もが欲しいに決まっています。

 つまりはこの入場者プレゼント問題、送り手と受け手との共犯関係がすでに強固にできあがってしまっている、というのがこのコラムの結論です。

 多少のいざこざや、純粋に映画を観ることを楽しんで欲しい気持ちが害されるなどのデメリットは、圧倒的な販促効果を前にしては目をつぶらざるを得ないでしょう。経済効果の強力さに、これは映画カルチャーにとってどうなのか、という問題がまともな議論の俎上にあがることすらないでしょう。もし無くさなければならなくなったら、アニメ映画の制作自体大幅に減少するのではないか、と危惧するくらいです。

 それはどこかのアイドルのシングルCDに人気投票の券を「入れない」という選択肢がないのと同じことです。外野はいろいろ批判をしても、ファン内部では何十枚、何百枚と同じシングルCDを買うことそれ自体がエンターテインメントなのです。券を封入しなければ売り上げが何分の1になってしまうことでしょう。一度始めてしまったら、もうやり続けざるを得ないのです。

 面白いことに、この入場者プレゼントカルチャーの浸透は、新しい映画の楽しみ方を生み出してもいます。

 ここ数年だと思いますが、アニメに限らず同じ映画を何度も繰り返し鑑賞するというのが、特殊な楽しみ方ではなくなってきています。もともとミュージカルなんかでは珍しくはなかったですが、それ以外の作品でも一般的になりつつある。入場者プレゼント施策によって半ば強制的に繰り返し観たところ、それはそれで楽しいということをファンが発見していったことも要因のひとつと言えるのではないでしょうか。

 僕が仕掛けた【極音】【極爆】の成功による「映画館ごとの聞き比べの面白さの発見」もその要因のひとつだと自負してますが(笑)。

 入場者プレゼント施策は今さらやめられない状況が固まってしまいました。しかし、映画館側がそれに甘えるのは良くないでしょう。必ずしもすべての入プレが大きな効果を出すわけもなく、手間だけ増えてお客さん増えず、ということもよくあることです。

 やはり映画館は、映画そのものの鑑賞体験できちんと集客できる体制を作っておかなければ、自分たちの立ち位置を見失うことになります。僕らの「売り物」はあくまでも、フィルムコマやミニ色紙ではなく「時間と空間」であるはずです。上質な鑑賞時間と鑑賞空間をいかに作り出すかに情熱を傾けるべきでしょう。【極音】【極爆】は鑑賞体験それ自体によってリピーターを生み出し続けています。

「入場者プレゼントをもらえれば映画は観なくていいと思っていたけど、劇場来てみたら観ずにはいられなかった」

 こう言わせてこそ、映画館のスタッフ冥利に尽きるというものです。やり方なら、いくつもある。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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