フィルムコマや「ONE PIECE 0巻」など、“入場者プレゼント”は映画館に何をもたらしたか

入場者プレゼントは映画館に何をもたらしたか

 入プレをめぐる事件となった“フィルムコマ”

 入プレをめぐる事件の中でも最も名高いのが、『劇場版まどか☆マギカ 新編』の公開時に入場者プレゼントを受け取るや否や、映画を観ないできびすを返して退場してしまうお客様に対して、ある映画館のTwitter担当者が「一個人のファンとして不快です。映画を楽しんでください!」と苦言を呈したところ大炎上。劇場側が謝罪し、一時アカウント停止になったというものでしょう。

 このTwitter担当者はきっと若かったのだろうと思います。僕も20代なら同じようなことを言っていたかも知れません。何しに来やがったんだと。映画館とは闇の中で異世界へ誘ってくれる、いわば神殿だぞ、と。僕にとっては映画館はサンクチュアリみたいなものですからね。

 ですが、古くはビックリマンチョコでシールだけ取ってウェハースが大量に捨てられたり、新しいものならインスタ投稿後にタピオカを飲みかけで街中に捨てたりなど、いくつもいくつも同様の話を知ってしまった汚れた大人としては、気持ちはわかるんだけど、ナイーブだなあ、と当時思っていました。

 すでに人気アイテムだったフィルムコマを大人気アニメで配ったら、類似のことが発生するのは想定内ですからね。当然のことが当然に映画館でも起こっただけです。

 深夜アニメの劇場版が作られるようになってきてから、入プレは週替わりで別のものを配るようになったり、しかも同じものでも絵柄が異なるものが何種類かあったりして、露骨にリピート鑑賞を促すようになってきました。

 元々深夜アニメ作品ゆえに対象が狭く、そもそもの観客の数が多くないため、それでも売り上げを上げようとすれば、これは同じお客様に繰り返し繰り返し観てもらうほかありません。

 映画に限らずですが、特にアイドルやアニメ関連ビジネスは、もうこういう類いのやり方以外ない、というところまで来ていると思います。

 特典をつけることにあまりにも強い効果があるので、今さらもうやめられないのです。

 例えばプレゼントのモノによっては、映画の公開3週目より4週目のほうが入場者が多くなる、というような通常の興行パターンではありえないことが起こったりすると、配給会社も、映画館側も「入プレ様々」ということになります。

 またファンの側にとっても、先述のように転売屋が出没してオークションやフリマアプリで高値がつくくらいですから、欲しい人、楽しみにしている人がたくさんいるということでもあります。

 特にフィルムコマは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のソフトの特典としてついてきたもので、ヒロイン綾波レイの笑顔のカットのものにオークションで十数万円の値がついたり、『劇場版 マクロスF』の入プレでは、当時はまだ実際に使用されてたフィルムを使用していたために「映画泥棒」のシーンなど本編と関係ないものが紛れ込んだのをネット掲示板でさらしあうネタ祭りが大流行するなど、様々な入プレの中でも話題に事欠かない最も人気あるアイテムです。

 とりわけかつてリアルに使用していたフィルムをカットしていた時代は、どのカットが含まれるかの当たり外れのダイナミズムが大きく、これ自体がエンターテインメントとして成立していたわけです。3種類や5種類のポストカードで何が出るかというのとは比べものにならないギャンブル性の高さがたまりません。

 推しキャラが映っていたら大興奮、ハズレたらハズレたで「おい、これ真っ黒でほとんどなにも映ってないよ!」と鉄板の笑い話にもなるという一石二鳥。これは本当に優れモノのプレゼントアイテムです。

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