異例のヒット『新聞記者』を巡る三つの違和感

異例のヒット『新聞記者』を巡る三つの違和感

 一つは、ノンフィクションからフィクションへと境界線を超えた、作品の成り立ちに関して。本作は東京・中日新聞社会部の望月衣塑子記者の新書『新聞記者』を「原案」としているが、映画化にあたって主人公の設定や具体的な事件はすべてフィクション化されている。そのこと自体は、映画の一つのあり方として否定されるものではないし、そうせざるを得なかった様々な事情があったことは関係者のインタビューなどからも推測できる。過去の日本映画にも、滝田洋二郎監督、内田裕也脚本・主演による『コミック雑誌なんかいらない!』のようにその当時の時事トピックを虚実ない交ぜに盛り込んだ作品があって、そこには映画という本質的に「いかがわしい」アートフォームならではの魅力があった。ノンフィクションからフィクションへと大胆な変質を遂げている以上、本作『新聞記者』にもそのような側面はあるわけだが、本作を取り巻く(作り手側、受け手側双方の)言説の多くは、その作品の成り立ちに由来する「いかがわしさ」に関してあまりにも無自覚、無頓着であるように思える。

 その「いかがわしさ」への無自覚さ、無頓着さは、作品自体の「脇の甘さ」にも影響している。本コラムは作品の批評が目的ではなく、あくまでも興行の分析を目的としているので内容に関しては深く掘り下げないが、複数の「現実の出来事を連想させる事件」が、同じく複数の「あり得ない設定」に放り込まれていることで、前者に焦点を定めて観るか、後者に焦点を定めて観るかで、作品全体の印象が大きく異なってくる。ノンフィクション的な凄みを持ったフィクションという線を狙うのであるならば、フィクションとしての完成度(脚本だけでなく、例えば内閣情報調査室などの美術においても)にもっと配慮すべきだというのが、後者にどうしても焦点が定まってしまった一人の観客としての自分の意見だ。

 最後に。本作を巡っては、製作の過程において作品から降りた制作プロダクション、監督候補、出演者候補の存在や名前が、公式、非公式の情報源を問わず多く出回っている現状がある。本来、政権批判を扱った作品が「デリケートな作品」とされること自体が問題視されるべきではあるものの、そのような情報も本作の宣伝に一役買っていることは間違いない。特に候補となっていたとされる俳優に関しては、仮に本当に出演を断ったのだとしても、それが政治的配慮によるものなのか、スケジュールやギャランティーの問題であるのか、あるいはまったく別の理由によるものなのか、外部からはわかりようがないことだ。これはどんな記事でもそれを容易に信じてしまう読者の問題でもあるわけだが、フェイクニュースを扱った作品がフェイクまがいのニュースの発信源になっているところにも、本作の「脇の甘さ」が表れているのではないか。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『新聞記者』
新宿ピカデリー、イオンシネマほかにて公開中
出演:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
監督:藤井道人
脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
音楽:岩代太郎
原案:望月衣塑子『新聞記者』(角川新書刊)、河村光庸
企画・製作:河村光庸
エグゼクティヴ・プロデューサー:河村光庸、岡本東郎
プロデューサー:高石明彦
製作幹事:VAP
制作プロダクション:The icon
制作:スターサンズ
配給:スターサンズ イオンエンターテイメント
製作:2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
(c)2019『新聞記者』フィルムパートナーズ
公式サイト:shimbunkisha.jp

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

音楽記事ピックアップ