西島秀俊の「ありがとう」に込められたもの 『きのう何食べた?』が描いた愛すればこその不安

『きのう何食べた?』愛すればこその不安

 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)の第10話が6月14日放送された。内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)が、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)に抱いてしまった不安や思いを、涙しながら正直に吐き出す姿が強く印象に残った。

 ケンジは三宅祐(マキタスポーツ)から、妻・レイコ(奥貫薫)のために美容室の2階を改装してエステルームにしたいという相談を受ける。第9話で祐は「娘に浮気がバレた」とケンジに相談している。だが仲良さげな2人の様子を見て、ケンジはホッとした表情を見せる。「色々あっても、夫婦だもんね」「やっぱり家族なんだな」と呟くケンジの表情は穏やかだ。

 しかし、祐の浮気相手が美容室に来店すると空気が一転。祐との関係を知っている美容室の従業員は気が気でない。レイコが浮気相手にハンドエステを施しているシーンで、ハラハラした視聴者も少なくないはずだ。ケンジが祐を問い詰めると「(浮気相手と)別れてはいない」という回答が。

 その夜、シロさんは小日向さん(山本耕史)から電話を受ける。シロさんが小日向さんと親しげに話す姿や何かを隠すように話をはぐらかした様子に、ケンジは不安を覚え始める。

 美容室でレイコは「仕事復帰して自信ついたら、態度変えると思うよ」と呟いた。心情を察したかのようにレイコを見つめるケンジ。レイコはケンジにこう伝える。「大事な人に絶対に浮気なんてされちゃダメよ。許すなんてそう簡単にできることじゃないんだから」。レイコが立ち去った後、ケンジは顔をこわばらせた。言葉の出ないケンジの表情から、レイコの言葉がケンジの心に深く刻まれたことがわかる。

 帰宅すると、誰かと親しげに電話しているシロさんの姿が。ケンジは意を決したようにシロさんへの不安を口にする。小日向さんとの関係を疑うケンジに「お前いい加減にしろ」と怒るシロさん。だが、声を震わせながら「絶対2人きりで会わないで」と話すケンジの目は真剣だ。目に涙を溜めながら思いを伝えるケンジの姿からは、シロさんのことを信じ、大事に思っているからこそ、不安が大きくなってしまったことが窺える。ケンジはポツリポツリと自身の過去を語り始めた。今と同じような状況でフラッと浮気をしたこと。当時の恋人を傷つけ、何もかもぶち壊したこと。かつての自分と今抱えている不安を重ねたケンジは大声で泣き出してしまう。

 だが、取り乱すケンジの口から出る言葉はあまりにも正直で愛おしい。号泣するケンジの口から出る言葉から、これからもシロさんと大切に日々を過ごしていきたいという思いが伝わってくる。かつて自分がしたことが起きないかと不安になり、それを口にしたことでシロさんに嫌われるのではないかと不安になり、その思いを吐き出すことでしか伝えられないことにやきもきしているのがわかる。「バカ! バカ!」と自分を責めるケンジだが、シロさんは力強い言葉でケンジの思いを受け止める。

「嫌ったりしないよ!」

 ケンジの目の前で、シロさんは小日向さんに断りの電話を入れた。ケンジは申し訳なさそうな表情で何度も「ごめん」と謝る。そんなケンジの肩をシロさんは優しくさすった。

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