令和最初の“ホームドラマ”ーー『きのう何食べた?』が描くものを、原作との違いから考える

『きのう何食べた?』は“令和最初のホームドラマ”

 ドラマ『きのう何食べた?』をジャンル分けするなら、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)のような“恋愛ドラマ”や『孤独のグルメ』(テレビ東京系)のような“グルメドラマ”ではなく、“ホームドラマ”にカテゴライズされると思う。テレビ開局の頃から存在し、昭和の時代に隆盛を極めたホームドラマは、大きな事件などはほとんど起こらず、家族や家庭内の出来事といったテーマを和気あいあいとした雰囲気の中で描く。食事シーンが重要視されたため、“めし食いドラマ”とも呼ばれていた。

 ホームドラマは平成の時代にほとんどなくなってしまったが、『きのう何食べた?』は平成最後、令和最初に登場した王道のホームドラマと言っていい。かつては『寺内貫太郎一家』(TBS系)のような大家族を主人公にしていたことが多いが、同性愛者のカップルが主人公というところが今の時代を象徴している。

 もっと踏み込んで言うなら、このドラマの本当の主人公はシロさんでもケンジでもなく、ふたりがともにつくる家庭であり、ふたりが囲む食卓そのものなんじゃないだろうか。そこには安らぎがあって、それはケンジがシロさんのマンションに転がり込んできた日から変化していない。

 シロさんの母親(梶芽衣子)は長年連れ添ってきた夫(志賀廣太郎)のことを想い、「毎日一緒に暮らしている人って特別なのね」と語る。それは夫婦も同性カップルも同じこと。シロさんとケンジはお互いが「特別な人」だ。外で心がチクチクするようなことがあっても、「ただいま」「おかえり」と言い合って(この二つの言葉は主題歌「帰り道」にも織り込まれている)、いつもの食卓で美味しい手料理を特別な人と一緒に食べれば、思わず笑顔もこぼれるというもの。食卓での安らぎに焦点をあてているから、シロさんは必要以上にピリピリしていない(自意識過剰気味ではあるけれど)。

 『きのう何食べた?』は、好きな人と一緒に食事をするというシンプルな幸せを、視聴者におすそわけしてくれる。作品からもたらされる、窓からこぼれるともしびのようなあたたかな気持ちが、週末の深夜の気分によく合っている。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『きのう何食べた?』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜
※テレビ大阪は翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
主演:西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、志賀廣太郎、山本耕史、磯村勇斗、梶芽衣子
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:松本拓(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
OPテーマ:「帰り道」O.A.U(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES / TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージック・レーベルズ>
制作:テレビ東京/松竹
製作著作:「きのう何食べた?」製作委員会
(c)「きのう何食べた?」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:@tx_nanitabe

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