『ミュウツーの逆襲』なぜ今3DCGでリメイク? 近年のポケモン映画が置かれる状況から読み解く

 ではなぜその名作を今になってCG作品でリメイクするのだろうか? それは近年のポケモン映画のおかれた状況と関係があると推測する。『ミュウツーの逆襲』の驚異的なヒットをピークにポケモン映画は興行的には毎年30億円前後の興行収入を記録する大ヒットシリーズではあるものの、大きな盛り上がりを見せることができない状況が続いていた。

 そして2016年の『ポケモン・ザ・ムービーXY &Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』では約21億円とシリーズ最低の興行成績となってしまう。本作は大手レビューサイトなどでも好意的なレビューが多いのだが、2016年の夏には『ファインディング・ドリー』『シン・ゴジラ』『君の名は。』などの記録的な大ヒット作品が次々と公開されたこともあり、決して作品そのものの出来は悪くないにも関わらず、競合のファミリー映画の前に苦戦を強いられた。

 そこで登場するのが今年の『ミュウツーの逆襲  EVOLUTION』である。ポケモンシリーズは世界中で高い知名度と人気を誇る作品であるが、北米ではすでに3DCGアニメが一般的なこともあり、近年では劇場版作品がその存在感を発揮することは難しくなっていた。そこで『ルドルフとイッパイアッテナ』で3DCGアニメに挑戦していた湯山邦彦監督が挑んだのがポケモンだった。『ミュウツーの逆襲』に当時熱狂した世代はすでに大人となっており、家庭を持ち子供がいる人も多いだろう。2世代にわたって楽しんでもらえるコンテンツであるポケモンを3DCG化することによって、単なるリメイクとして日本のファミリー層を呼び込むだけでなく、北米など世界中で高い興行収入を得ることを期待したのではないだろうか。

 日本のアニメ産業は世界でも高く評価されており、『ドラゴンボール超 ブロリー』は高い原作人気もあって世界中で大ヒットを記録し、世界興行収入は100億円を超えている。その他にも『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE 2人の英雄(ヒーロー)』も北米を中心にヒットしているほか、北米以外でも『ドラえもん』や『名探偵コナン』などのファミリー向けアニメ映画が中国で1億元(2019年4月のレートで約16億7千万円)のヒットを記録している。世界中でのポケモン人気はこれらの作品と比べても決して劣らぬことを考えると『ミュウツーの逆襲  EVOLUTION』も記録的なヒットも期待できる。

 また興行以外の面においても、予告を見る限りにおいてリザードンが火炎放射を放つシーンなどは迫力があり、作品のクオリティ自体も高いものが期待できる。また、手法も一新したことによって“リメイク(コピー)がオリジナルを超える”ことができるのかという試みもあるようにも感じられる。どうしてもリメイク前と比べられてしまうところもあるだろうが、願わくば“どちらも違ってどちらもいい”という作品に仕上がっていてほしい。

 2019年はポケモンが初の実写映画化された『名探偵ピカチュウ』も公開されており、ポケモンシリーズ全体に大きな注目を寄せられている。『名探偵ピカチュウ』と公開時期を若干ずらしたのは事前に協議などがあったのかはわからないが、ハリウッドで製作された初の実写化作品と、日本で製作された初の3DCG作品が同年の比較的近い時期に公開されるのは偶然としても面白い。『名探偵ピカチュウ』は、『ミュウツーの逆襲』を意識した部分も見受けられ、相乗効果で日本のみならず世界中でどのような反応と興行収入を記録するのだろうか。今後のポケモン映画の興行を左右する可能性もあるだけに、その動向に注目していきたい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』
7月12日全国ロードショー
原案:田尻智
監督:湯山邦彦、榊原幹典
エグゼクティブプロデューサー:岡本順哉、片上秀長
プロデューサー:下平聡士、關口彩香、長渕陽介
CGIスーパーバイザー:那須基仁
脚本:首藤剛志
音楽:宮崎慎二
音響監督:三間雅文
アニメーションプロデューサー:小林雅士
アニメーション制作:OLM Digital
製作:ピカチュウプロジェクト
配給:東宝
(c)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku
(c)Pokémon (c)2019 ピカチュウプロジェクト
公式サイト:https://www.pokemon-movie.jp/

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