『東京独身男子』ずっと見たかった高橋一生がここにいる 可愛すぎる“太郎ちゃん”に至るまで
その極めつけが、ここ数年の恋愛映画における彼である。どうも映画というものは残酷で、完璧な理想の男というものは大体女の夢の中にしか現われないようにできているのか、彼は完璧すぎて幻と化している。また、恋愛映画は女性の心情の変化を主とすることが多い。そのため、男性は基本的に受けの演技を強いられるわけで、これまで物語の端のほうにいるどんな役にも生命を吹き込み、その語られない背景をもこちらに想像させてきた高橋は、もちろん今までと変わりなく、それぞれの役を完璧に演じ、ヒロインを最大限に輝かせてきた。
例えば桜井ユキとのラブシーンが強烈だった映画『リミット・オブ・スリーピングビューティ』の写真家役。しかし既に彼は亡くなっていて、恋人を失った傷心の桜井ユキの記憶の中に佇む存在であるために、霞のように夜の闇に消えてしまった、幻の美しい男に過ぎない。高橋が長澤まさみの耳の裏にキスする場面がとても素敵だった『嘘を愛する女』でも、彼は序盤に意識を失い終始眠っている。映画は彼女が謎に満ちた彼の実像を見つけ出すまでの過程を描いているのであって、やはりここでも彼はヒロインが行動または思うことによってのみ動くことのできる、美しい記憶が形をなした人物に過ぎないのだ。
さらには『九月の恋に出会うまで』の彼は、まず「声」のみでその姿を表し、ヒロインに尾行・観察されることでかなりの時間「謎の人物」として観客に見られることになる。ただこの映画の場合、謎の男であると共に、後半恋や夢と向き合うために葛藤する姿も描かれるために、彼は珍しく完璧ではない、葛藤の片鱗を少しだけ覗かせる。
「常に完璧すぎて人間離れしている」というのは言いすぎだが、常に受身で余裕の高橋一生が、恋愛映画において描かれてきた。だが、このドラマにおいて、高橋メアリージュン演じる元カノへの「好き」という気持ちが暴走し抑えきれず、パソコンにコーヒーをぶちまけ、それを地道に麺棒で掃除し、ライバルの完璧さを前に何事もうまくいかず、完全に敗北し、「やっぱり結婚なんてもういいや」と布団に飛びこんだりすることがこんなにも嬉しいのは何故だろう。好きな人の行動の一つ一つに翻弄され、こじらせて強がったり、当惑したり期待したり、大忙し。このドラマの登場人物の中で誰よりも真っ直ぐかつ不毛に「恋をする」ことを体現している。仲里依紗が言う通り、太郎は他の2人と違って「真っ当」に生きている人間、つまり我々視聴者と一番近い位置に立って、「アジェンダ」なんていう役に立つのか立たないのかわからないものを作って喜んでいるのだ。
高橋一生は元々、報われない恋に向かっていく側の存在だった。『おんな城主 直虎』の政次も舞台『ガス人間第一号』のガス人間も決して叶わぬ恋を昇華する人物だったし、『カルテット』の家森はすずめ(満島ひかり)への恋心を言葉遊びの中に潜ませ続けた。高橋一生はいつもこじらせた恋をする人の側にいた。それこそが勝手ながら、俳優・高橋一生の本質であるような気がするのだ。
2話の最後、妹キャラだった仲里依紗演じるかずなが、太郎に迫る。逆に迫られる立場になりそうな太郎が、今度はどんな行動にでるのか。楽しみでならない。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
土曜ナイトドラマ『東京独身男子』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:15~0:05放送
出演:高橋一生、斎藤工、滝藤賢一、仲里依紗、高橋メアリージュン、桜井ユキほか
脚本:金子ありさ
音楽:河野伸
演出:樹下直美、タナダユキほか
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、菊池誠(アズバーズ)岡美鶴(アズバーズ)
制作協力:アズバーズ
制作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日
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