『ブラック・クランズマン』スパイク・リーよる“映画的復讐”とは 2つの引用作品をもとに考察

『ブラック・クランズマン』が照らし出すアメリカの道筋

本作における復讐の意義

 南北戦争を時代背景に白人富裕層社会をドラマティックに描いた作品『風と共に去りぬ』のワンシーンで始まり、1979年コロラド州における白人至上主義団体を取り巻くクライム・エンターテインメントを映画の祖『國民の創生』まで巻き込み繰り広げる本作が着地するのは、アメリカの現在である。終盤でスクリーンには、2017年8月12日バージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者らと反対派による衝突の際の実際の映像が映る。この映像は、反対派のデモにネオナチの男性が運転する暴走車にはねられた参加者ヘザー・へイヤーが命を落とす凄惨な瞬間を捉えている。犠牲者のヘザーが彼女のfacebookページに残した最後の投稿にこんな言葉が綴られている。"If you’re not outraged,you’re not paying attention.(あなたが怒りを感じていないのは、注意を向けていないからだ)"

 『國民の創生』が公開された1915年当時から今に至るまで、我々は果たして正しい歩を進めてこれたのだろうか? そんなリーの問いで本作が締めくくられているのは、劇中にも登場するKKKの元指導者デビッド・デュークに支持される大統領がアメリカを治めている今こそ、私たちの生きる時代であるからだ。

 これまでにも『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』と映画史に残る傑作でアメリカ社会におけるマイノリティの在り方に警鐘を鳴らし続け、本作で念願の初オスカーを手にしたスパイク・リー。その名を封筒の中に見つけたプレゼンターのサミュエル・L・ジャクソンは、思わず「やった!」と興奮の声をもらし、二人はオスカーの壇上で抱き合い喜びをあらわにした。受賞スピーチで語った「皆で歴史の正しい方向に一歩踏み込もうではありませんか。Do the right thing!」。その言葉通り、彼はこの『ブラック・クランズマン』で映画史の正しい道付けを示した。

■菅原史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

■公開情報
『ブラック・クランズマン』
全国公開中
監督・脚本:スパイク・リー
製作:スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか
ユニバーサル映画
配給:パルコ
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/原題:BlacKkKlansman/映倫:G指定
(c)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

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