どうしようもない現実を抱えるデリヘル嬢たちーー『フルーツ宅配便』を見守る濱田岳の奮闘
どうしようもない現実を少しでもマシにしたい女性たち
何不足なく日々暮らしている人たちから見えない場所で、デリヘル嬢たちは悲劇的な状況に置かれている。しかし、そこで「自己責任だ」と突き放すような物言いや好奇心丸出しの視線と『フルーツ宅配便』は真逆の場所にいる。
彼女たちは何か落ち度があって、今のような悲劇的な状況に置かれているわけじゃない。たとえば、ゆずはDV夫と離婚したものの夫名義の借金を抱えて苦しんでいる。モモは自分を引き取って育ててくれた育ての親に恩返ししたい一心で就職した会社に裏切られた。シングルマザーのブルーベリーは昼間の仕事のミスで借金を抱え、パニックになって薬物に走ってしまった。そのあたりをこのドラマをきっちりと描く。
レイプ動画を公開しようとする男や、妊娠させてしらばっくれるような男など、デリヘル嬢たちを取り巻く男たちの悪意は、コワモテのオーナー・ミスジ(松尾スズキ)によって成敗される。しかし、それで彼女たちの人生が好転するとは限らない。一時的に最低最悪の地獄を逃れただけなのだ。ドラマでは彼女たちの日常が続いてくことがさりげなく描かれる。彼女たちの今後がどうなるかは視聴者の想像に委ねられることが多い。
ドラマの救いになっているのが、咲田の善意であり、優しさである。とはいえ、咲田の善意はいつも報われない。生活苦のゆずを助けようとお金を貸そうとするが、逆に借金の保証人になるよう頼まれて、みっともなく逃げ帰る。直引きをしてミスジに罰金100万円を言い渡されたスダチにもお金を貸そうとするが、スダチが選んだのはミスジによるソープでの仕事の斡旋だった。濱田の情けなさ、しょぼくれた感じの演技が優しさの空回り感にぴったりとハマる。
咲田はヒーローなんかじゃない。でも、優しさだけはデリヘル嬢たちにじんわりと伝わっている。咲田の優しさが、どうにもならない現実を少しだけ癒やしてくれる。
ドラマを貫く大きなストーリーになっているのが、咲田の同級生・えみ(仲里依紗)だ。別のデリヘルで働く彼女も、信じられないような辛い境遇に置かれていた。母親が連れてきた新しい父親は、まだ10代だった彼女を家から追い出して援助交際を強いた。さらに自分を捨てた母親が残した莫大な借金を返済するために悪徳デリヘルで働いていた。
咲田はえみを少しでもマシな境遇に置くため「フルーツ宅配便」に引き抜く。業界ではご法度とされていた引き抜き行為をミスジは認めてくれたが、その代わり悪徳業者からの報復を受ける。最終回ではミスジがいない状態で咲田が「フルーツ宅配便」の女性たちを守らなければならない。
どうしようもない現実を少しでもマシにしたいと思い、デリヘルで働く女性たち。そんな彼女たちを守ろうとする咲田の奮闘を最後まで見守りたい。
■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter
■放送情報
ドラマ24『フルーツ宅配便』
テレビ東京、テレビ大阪ほかにて毎週金曜深夜0:12〜放送
出演 : 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、原扶貴子、徳永えり、山下リオ、北原里英、荒川良々、 松尾スズキ、内山理名、成海璃子、うらじぬの、内田慈、筧美和子、中村ゆり、松本若菜、松岡依都美、阿部純子
原作:鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館『ビッグコミックオリジナル』連載)
監督:白石和彌、沖田修一、是安祐
オープニングテーマ:EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ:超特急「ソレイユ」(SDR)
チーフプロデューサー:浅野太(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ)
制作:テレビ東京、オフィス・シロウズ
製作著作:「フルーツ宅配便」製作委員会
(c)鈴木良雄・小学館/「フルーツ宅配便」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/fruits/