マックス・チャンのアクションが凄まじい! 『イップ・マン外伝 マスターZ』は超王道の娯楽活劇に
詠春拳の使い手・張天志(チョン・ティンチ)は、同じく詠春拳の達人である葉問(イップ・マン)との看板を賭けた対決に敗れ、武術界から姿を消した。殺し屋稼業からも足を洗い、たった1人の息子と平凡な生活を送ろうとするが、たまたま出くわしたヤクザ集団を秒殺したせいで恨みを買ってしまう。せっかく持った店も放火され、おまけに息子も重傷を負ってしまった。路頭に迷う張天志であったが、ひょんなことから知り合った酒場の歌姫に誘われるがままバーの店員として働き始めることに。ここから再出発が始まるかと思いきや、張天志は生来の気の短さゆえ、息子の敵討ちにヤクザの拠点を襲撃して全焼させ、バーでは横柄な客のライターを叩き壊すなど、前途多難な雰囲気に。激化する張天志とヤクザたちの抗争、その裏で暗躍する外道イギリス人に、腐りきった警察組織、そして張天志の前職の殺し屋組織……果たして張天志の明日はどっちだ!?
このように、『イップ・マン外伝 マスターZ』(2018年)は大ヒット功夫映画シリーズ『イップ・マン』のスピンオフであり、様々な強者たちが各々の思惑(とファイトスタイル)を持って戦いを繰り広げる超王道の娯楽活劇である。
実在の詠春拳の達人・葉問の人生を描いた『イップ・マン』シリーズは、今や世界最高のアクション・スターとなったドニー・イェンを主演に、『序章』(2008年)、『葉問』(2010年)、『継承』(2015年)と、すでに3作品が作られている人気シリーズだ。人気も評価も高い一方で、「伝記映画」と「娯楽活劇」のバランスで苦労しており、完全に『ロッキー4/炎の友情』(1985年)と化したり、たまたまトラブルになった不動産屋がマイク・タイソンだったりと、無茶が過ぎる部分も多々ある。日本で言うところの『空手バカ一代』みたいなものだが、こうした虚実ない交ぜの部分もまた同シリーズの魅力だ。そんな『葉問』シリーズの3作目で敵役として登場したのが張天志だ。演じるのは、『ドラゴン×マッハ!』(2015年)の超絶獄長役でアクション映画ファンのド肝を抜いたマックス・チャン。葉問に匹敵する腕前を持ちながらも、人格に未熟さが残る張天志はハマリ役となった。スピンオフができるのは自然な流れだったと言えるだろう。
前述のように「伝記映画」と「娯楽活劇」の間で揺れる本家(?)に対して、本作『マスターZ』は架空の人物が主役なので、全てがフィクション。“面白ければ何でもあり”というマインドで作られている。象徴的なのは冒頭だ。暗殺組織からの転職を図る張天志は、銃を持った組織のボスに「俺が拳銃を抜くのと、お前の拳、どっちが速い?」と尋ねられる。すると張天志はこう返す。「7歩以上なら銃。7歩以内なら拳だ」。そんな無茶なと思うが、これは「この映画は7歩以内なら銃より拳が強い世界の映画です!」という宣言に他ならない。
この脱リアル宣言を皮切りに、マックス・チャンの現実離れした美技が次々と炸裂。いきなりのVSトニー・ジャー戦では高速の超接近戦を。直後のVSヤクザ戦では華麗な足技を。続けてのVS復讐ヤクザ戦では看板の上をビュンビュン飛び回るアクロバットな格闘シーンで魅せてくれる。直後のトニー・ジャーとの再戦は狭い空間でスピード感ある戦闘を、VSシン・ユー戦はコミカルに、中盤の目玉VSミシェール・ヨー戦では格闘から武器使用と、現時点でのマックス・チャンができることを全て出し切るようなアクションが連打される。
待ちに待ったクライマックスは、マックス・チャン3人分くらいの体積がありそうな巨漢デイヴ・バウティスタとの階級差ファイト。しばしば功夫映画で巨漢は「やられ役」にされがちだが、本作では対格差の脅威をしっかり描いている。連打が全く効かない分厚い胸板など、「こんなヤツにどうやって勝つんだよ!?」と絶望すること必至だろう。実際、張天志も散々ボコボコにされるのだが、だからこそ逆転のタイミングには最高のカタルシスが発生する。