宮藤官九郎は過去と現在をどう繋ぎ合わせるのか “疾走”する大河ドラマ『いだてん』を読む
第1話の冒頭は、大きな穴と、その穴を悠々と越える四三らしき人物の足で始まる。このドラマ、ひたすら駆け抜けてはいるが、どこもかしこも穴だらけだ。
私たちはまだ、第1話で描かれた物語の全貌を把握しきれていない。なぜなら、第1話で描かれたのは、役所広司演じる嘉納治五郎側から見た物語、それも志ん生の冗談交じりの落語噺としてしっかりとしたオチがつけられた物語であって、最後の最後にしか主人公・四三は登場しない。もう一度見返すと、足袋の足元や、立ち小便をして叱責され逃げていく人影を彼と認識することはできるのだが、それだけである。その物語のいわば補足のように、2話以降、四三側の物語が描かれている。大分明らかになってきた物語の全貌であるが、まだ、どしゃぶりの予選会を走る男たちの物語と、四三念願の治五郎との抱擁と会話の内容は明らかになっていない。
さらには、戦勝国として盛り上がっている明治の終わりの日本と、高度経済成長期で盛り上がっているオリンピック招致目前、1959年の日本のその間の、これから補完されていくだろう“穴”。決していいことばかりではなく、平坦な道のりではない。太平洋戦争がある。過去と現在、その間のまだ描かれていない空白を『あまちゃん』において震災を見事に描いた宮藤たちはどう描くのか。
何か新しいもの、面白い事をしようと模索する人たちが、穴だらけ、ぬかるみだらけの道を、ひたすら走る。四三が、志ん生が、彼らを追いかける名もなき子供たちが。狭い世界の中で、キャラが濃すぎる登場人物たちが、それぞれのユニークな世界を形成していて、時折すれ違う様が、面白い。
トンネルの先には、何があるのか。私たちの生きる、2020年の東京オリンピック目前の現代に物語はどう繋がっていくのか。
■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。
■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK