『アクアマン』大ヒットで生ける伝説へ 予測不能な天才監督ジェームズ・ワンの凄さの本質を紐解く

ジェームズ・ワン監督の凄さの本質

 この作品を理解する一助となるのは、主役を演じたジェイソン・モモアの不思議な魅力であろう。彼のルーツは、ハワイ先住民、アメリカ先住民、ヨーロッパの民族と、複数の大陸、島にまたがっていて、いままでのハリウッド大作の主役としては、ほとんど見たことがない風貌である。そしてそれは、二つの種族の間に生まれ、双方の人々を融和させようと奮闘するアクアマンの姿に重なっていく。だからこそアクアマンは、閉塞した現状を打破する存在になり得るはずだ。

 そしてそれは、アメリカで奮闘する、アジア系でありオーストラリア人のジェームズ・ワン監督という、複数の社会を横断する存在とも重なりを見せる。『アクアマン』は、典型的なハリウッド大作であり、観客の心理を十分に理解しながら、アジア的なセンスを感じる部分もある。こういった表現は、偏見なく興味の触手を伸ばして表現を融合する作家性と、ヒットメイカーだからこそ可能なのであろう。しかもそれは、アジア的神秘性をことさら強調したりするような表面的なものではない、あくまで内部的なものである。それは、ハリウッドのステレオタイプとも、アメリカにおけるいままでのアジア人のステレオタイプのイメージとも異なる。

 新しいジャンルで次々に成功を収め、自分のイメージを確立しながら、何度もそれらを脱ぎ捨てていく。彼は期待されるイメージを自分から覆し、常に新しい表現を目指す監督なのだ。新しい企画の話は次々に伝えられてはいるが、今後、彼がヒーロー映画を作っていくのか、ホラーに回帰するのか、それともまた別の分野に挑戦するのか。とくにいままでの経緯を考えれば、全く予測不能である。それもまた、ワン監督の魅力であることは間違いない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『アクアマン』
2月8日(金) 全国ロードショー
監督:ジェームズ・ワン
出演:ジェイソン・モモア、アンバー・ハード、ニコール・キッドマンほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/aquaman/

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