『蜘蛛の巣を払う女』にみる、『ミレニアム』映画シリーズの真価
とはいえ、じつは二人は根本的なところでよく似ている。それは、いまだに父親の影響から逃れられていないという点である。犯罪組織を受け継いで、物理的な意味でも父親の存在を内面化しているカミラはもとより、リスベットもまた、夜な夜な父親のような男に制裁を与え続け、父親を否定し続けなければいられない存在になってしまっているのだ。それほど彼女たちは、巨大な負の亡霊に支配されている。
もともとの原作者スティーグ・ラーソンの親友は、『ミレニアム』シリーズには、ラーソンが15歳の頃に体験した痛ましい事件が小説に反映していると述べている。それは、ある女性が男の集団に襲われているのを目撃しながら、その場から逃げてしまったという出来事だという。そのときの罪悪感が「リスベット」を作り上げたのだと。
これを信じるなら、リスベットという存在は、原作者のトラウマそのものであり、その鏡像となっているカミラもまた、トラウマそのものである。ということは、『ミレニアム』というシリーズは、彼女たちが自身の傷と折り合いをつけ、その痛みから救われるための作品だといえよう。それを書いたとき、『ミレニアム』という小説は終結を迎えるのだろう。そして映画もまた、それを描くまでは続ける必要があるのではないだろうか。映画作品としての最終作が撮られるとするなら、そのときに本作の真価が、違う意味を持って立ち上がってくるかもしれない。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『蜘蛛の巣を払う女』
全国公開中
監督:フェデ・アルバレス
製作総指揮:デヴィッド・フィンチャー
脚本:フェデ・アルバレス、スティーヴン・ナイト、ジェイ・バス
出演:クレア・フォイ、シルヴィア・フークス、スベリル・グドナソン
原作:『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』(早川書房刊)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.girl-in-spidersweb.jp