戸田恵梨香とムロツヨシが残した愛の記憶 『大恋愛』が問いかける“人生を後悔なく生きること”

『大恋愛』が問いかける“後悔なく生きること”

 少し個人的な話になるが、このドラマを見ていて筆者の幼なじみの母親がアルツハイマー病を発症したときのことを思い出した。火の始末を忘れてしまう。急に感情的になったり、歩く速度が著しく遅くなったりと、少しずつ現れた変化に周囲の誰もが戸惑ったのを覚えている。何十年と一緒に笑い合っていたその人が、自分の顔を見てもうつろな眼差ししか向けてくれない悲しさ。思い出話にも反応はなく、表情が失われた顔は今まで見てきた人と同じ顔なのに、全くの別人にさえ見えた。こんなふうに文章にすると、真司が尚のことを小説に書く心情が少しだけわかるような気がする。自分には治すことはできなくても、その人が生きていたことを記しておきたいという気持ち。

 若年性アルツハイマー病を題材にしたラブストーリーは、これまでも多く描かれてきた。その多くが、真司の小説のように悲しみの中にも、美しさを残していたように思う。もちろん『大恋愛』もドラマであるからこそ現実の過酷さを、すべて映し出しているとは言わない。症状も人それぞれであるように、もっと厳しい現状に打ちひしがれている人もいるはずだ。だが、それでも戸田とムロの名演技によって、忘れゆく人とそれを見守る人がどんなふうに愛を交わすことができるのかを、できるだけリアルに描こうという誠実さを感じる。

 その誠実な作りゆえに、“愛する人がもしこの病にかかったら?”と、自分のリアルと照らし合わせて、今ある奇跡に感謝する視聴者も少なくないはず。そして、いざ身近な誰かがそうなったときにも、少しだけ心を落ち着けて対応できる何かを植え付けてくれているような気がする。2025年には約5人に1人が、認知症やMCIに……。厚生労働省の推計で、こんな数字が発表されている(参照:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html)。

 この数字には団塊世代の高齢化なども加味されているものの、アルツハイマー病の脅威は決してドラマの中だけの話ではないことを突きつけられる。このドラマは、明日にでも私たちが体験するかもしれないストーリーなのだ。ついに、来週は最終回。改めて「自分の人生を後悔なく生きる」とは、と問いかけるドラマの結末を、心して見届けたい。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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