小池徹平の負のスパイラルが止まることを祈る 『大恋愛』が描く“自分を残したい”という願い

『大恋愛』が描く“自分を残したい”という願い

 では、もし自分の生きた記憶を覚えていてくれる人が誰もいなかったら? 自分自身も徐々に愛された記憶を失い、自分よりも自分を覚えてくれる人は医師しかいない。残る記録はカルテくらいだろう。病を知った途端に妻が去った公平(小池徹平)の気持ちを想像したら、どんどん自分の存在が透明になっていくような感覚がした。尚と真司に固執するのは、どんな形であっても誰かに記憶されたい、と思ったからではないか。いつも鮮やかなカラーのアウターを着ているのも、大きなゲップをしてみせるのも、誰かの意識に少しでも入り込みたいと思ったのではないか、とさえ思ってしまうのだ。

 真司を執拗に挑発するのも、真司の描く小説の登場人物に記録されたい、と考えたから……かどうかはわからない。だが、それくらい公平が孤独に苛まれているように見えるのだ。尚を失神に追い込んだマイクのハウリング事件のときも、公平だと遠目でわかる服装だった。もしかしたら見つけてほしいと、どこかで願っていたのかもしれない。

 自分が傷ついていること、悲しんでいることを、誰かに知ってほしくて、でもうまく伝えられなくて、周囲を破壊することでしか表現できなくなっていく。それは若年性アルツハイマー病がきっかけだったかもしれないが、その病にかかっていない人でも落ちる心のエアポケット。心の痛みゆえに、周りをかき回し、さらに孤独になり、より傷つく……公平が人生の残り時間をそんな負のスパイラルで過ごすことのないように。公平の心を抱きしめてくれる誰かが現れてくれることを祈るばかりだ。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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