『まんぷく』は“美味しさ”とは何かを教えてくれる 萬平の塩作りがもたらしたもの

『まんぷく』が伝える“美味しさ”

「これが清香軒のラーメンや!」

 これはラーメンが出来上がった直後に発した竹春の渾身の台詞である。みんなに塩入りのラーメンを作ってあげた竹春とまさのの表情はどこか誇らしげであるとともに、安堵感のようなものも感じられたものだ。ようやく自慢のラーメンを届けられるようになったという喜びからくるものなのだろう。みんなが美味しそうに麺をすするのを見て、夫婦で肩を寄せ合うその姿からは“美味しさを届ける側の喜び”で満ち満ちていた。

 『まんぷく』では、ご飯を“食べる側”の人間と“届ける側”の人間の双方の姿が描かれてきた。たとえ一杯のラーメンであってもたくさんの人々の思いがこもっているもの。塩を作った萬平たちの思いもあれば、ラーメンを作った竹春とまさのの思いもある。そんな彼ら、彼女らの顔が見える中で、その思いを噛みしめることで、“美味しさ”は何倍にも、何十倍にも膨らますことができるのだ。その食べ物自体の味を超えた“美味しさ”がある。それは単に頑張って汗水垂らした甲斐があったからという理由だけではないはずだ。自分の作った塩が(竹春たちからすればラーメンが)、“たくさんの人の笑顔を作っている”という喜びからくるのだろう。ひょっとしたらそれは現代の私たちが忘れかけていることかもしれない。

 ラーメンを食べながらみんなに福子はこう告げた。「皆さんは世の中の役に立つ仕事をしているの。そやから頑張ってお塩を作ってください。私も一生懸命、皆さんのお世話をしますから」。塩を作った萬平たちの働きは決して小さなものではない。ちゃんと“人の役に立っている”。わずかな塩から得られたものは、想像以上に大きなものだったのだ。

(文=國重駿平)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『まんぷく』
10月1日(月)〜2019年3月30日(土)【全151回】
作:福田靖
出演:安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平/桐谷健太、片岡愛之助、橋本マナミ、松井玲奈、呉城久美、橋爪功、松坂慶子ほか
語り:芦田愛菜
制作統括:真鍋斎
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/mampuku/

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