脚本・大石静の物語になぜ感情移入してしまうのか 『大恋愛』胸が締め付けられる急展開

『大恋愛』になぜ感情移入してしまうのか

 確かに尚の病は予断を許さない状況だ。ただ、記憶とは瞬間、瞬間の集積である。真司はその“瞬間”ーーつまり、尚と過ごす1秒、1秒。例えば、一緒にビールやソーセージを口にしたり、決して大きいとは言えない真司の部屋でじゃれ合ったりといった1つ、1つの時間ーーを2人で共有できることに心から感謝しているように見える。やがて尚からそれらの“瞬間”の中からこぼれ落ちてしまうものがあるのだとしても、真司は尚の分までちゃんとそれらを大切にしていくつもりだったのだろう。


 “ラブストーリーの名手”とも言われる大石静による作品が、今なお世代を超えて共感を生み出すことができるのは、大石が“どの世代にも共通する恋愛のコア”をしっかりとキャッチしているからかもしれない。時代が変われば恋愛のスタイルはコロコロ変わっていく。今の若い世代にしかグッとこない恋愛スタイルもあれば、その逆ももちろんある。ただ、本作中の「好きと嫌いは自分じゃ選べない」の台詞などにみられるように、世代を超えて理解できる言葉や振る舞いが要所に現れる。だから、今の若い世代が本作を観ても、極端な古臭さを感じることも少ないだろうし、思わず引き込まれてしまうのだろう。もし『大恋愛』以外にも、大石の手がけた過去作品を観ることがあれば「ひょっとしたらこれは“自分たちについての”物語なのかもしれない」と感じることがあってもおかしくない。

 ところが、第4話で真司は「尚ちゃんは心の中で俺よりも井原先生(侑市)を頼りにしているよ」と尚に告げる。その回の終盤には「別れよう」の言葉まで出てきてしまった。これまでの2人の軌跡を観てきた一視聴者としては、すれ違ってしまう2人を見るのは胸が締め付けられる。20年もの間、筆を置いてきた真司が再び執筆を始めるきっかけになったのは尚だった。それは、尚との“瞬間”の集まりを基に溢れる思いを何かの形で残しておきたいと考えたからなのかもしれない。だからこそ、真司の新作『脳みそとアップルパイ』はそれだけ意味のある作品になるはずであり、きっとそれは2人にとって必要なものになるはずだ。

(文=國重駿平)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏、木南晴夏、小池徹平
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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