ムロツヨシは愛を貫くことができるのか 『大恋愛』溢れ出した心の叫び

『大恋愛』ムロは愛を貫くことができるのか

 もしかしたら、真司がこれほどコンプレックスを刺激されているときでなかったら、笑って間違いを指摘していたかもしれない。バイト先で振る舞うように、おもしろおかしくその場を取り繕っていたのではないか。だが、人は同じことを言われても、受け取るときのタイミングによって傷つきやすく、思わぬスイッチが入ってしまうときがある。

 体内で蓄積されて大きくなった結石が痛みと共に飛び出すように、「病気と恋がごっちゃになってるんだよ」と、ずっとモヤモヤしていた真司の心の叫びが溢れ出す。きっと真司は、これまでの人生で、これほど自分の本音をぶつけたことはなかったのかもしれない。本当の気持ちを投げかけるのは、同時に“受け止めてほしい”という願いでもあるのだから。

 神社に捨てられた過去を持つ真司は、小さいころから自分の感情を主張するよりも、我慢することで自分を肯定してきたのではないか。手に入らないものは、そもそも望まないこと。誰かとほしいものが重なったら、譲ること。その小さな我慢や葛藤が積み重なって、『砂にまみれたアンジェリカ』が生まれたのだろう。

 〈空に向かって突っ立ってる煙突みたいに 図太くまっすぐに この男が好きだとアンジェリカは思った〉というフレーズは、真司の心の声そのものだったに違いない。だが、真司が次に発表した2作目は酷評されてしまう。自分が声を上げることは、やはり求められていないのだ、と筆を置いた真司。そこからは何も望まず、ただ毎日を生きてきたのではないか。

 諦めることこそ、自分を守る唯一の武器。そうした思考回路を20年近くまわしてきた真司にとって、“侑市よりも自分のほうが尚を幸せにできる”と我を通すのは無理があったのだと、身を引くストーリーのほうがスマートに描けたのだろう。だが、それで小説は「完」を迎えても、人生は続く。尚は生き続ける。真司が想像していたよりも、ずっと深く真司への愛を抱きしめながら。

 人は出会いを繰り返して、思いもよらぬ展開に直面していく。尚に襲いかかる悲劇と共に描かれる真司の成長。そして、侑市ら周囲の人間も尚や真司との出会いを通じて、変化が生まれている。第2章では木南晴夏をはじめ、さらなる出会いが待ち受けている。真司は図太くまっすぐに愛を貫くことができるのか。大恋愛の先にある、新たなストーリーから目が離せない。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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