橋本愛が語る、『告白』と上京当時の思い出 「日活撮影所に行くと胃が痛くなってしまって」

橋本愛が語る、上京当時の思い出

ーーこの物語には漠然と「東京」が存在していますが、橋本さんは「東京」に思い入れはありますか?

橋本:あんまり東京を東京として見ていないんだろうなと思います。どこに行っても好きになれないんですよ。あと、住んでいた場所は毎回嫌いになって引っ越しているんです、もう行きたくないくらい。住むたびに嫌いになってしまって、23区住んだら23区嫌いになってしまうかもしれないので、危険だなと思っているんですけど(笑)。東京というよりも場所って捉えていて、主観で生きているからかもしれないけど、結局どこ行っても同じだなというのはすごい思います。「ここがわたしの終の住処だ」みたいな風に思う場所ってないんじゃないかな。結局そこで何をしたかによると思います。そこで誰といたかとか、何をして自分がどうすごしたかによって、その場所が自分の中に根付くっていう意味だと、東京には楽しいも苦しいも存在しています。密度としては楽しいは少ないけれど、でも少ないからこそ1個1個楽しい瞬間をじっくり味わうように、貴重だぞと思いながら、楽しんでいますね。それは自分でバランスが取れている部分かもしれないです。

ーー「私」は何者かになりたくて東京に行きましたが、橋本さんは……?

橋本:わたしはまったくなくて、むしろ逆です。中学校がキラキラしていたから離れたくなくて、東京に半ば無理やり連れ出される感じで、赤ちゃんみたいに抵抗しました。その時は夢とか目標とか何にもなくて、ただ目まぐるしく変わる周りの状況とか環境に対してついていくのが精一杯だったので本当に記憶がなかったですね。ずっとしっくり来てなかったんでしょう。

ーーそれは『告白』のころでしょうか?

橋本:『告白』なんて中学生だったので意識も自覚もなにもなかったですね。結構つらい現場で監督も厳しかったので、愛情があっての厳しさというのは感じていたのですが、やっぱり力がないことに対しての苦しさがつらかったです。早く乗り切って帰りたいという気持ちはあったと思います。だからちょっと前まで日活撮影所に行くと胃が痛くなってしまっていて、悪夢の場所で(笑)。最近はむしろ「カモン」という感じなので、やっと過去の苦しさとか足りなさを補ってきたんだなあというのは日活撮影所で感じました。

ーー前向きになれるターニングポイントがあったのですか?

橋本:わたしの人生の始まりは『告白』だったのですが、この仕事をちゃんとやらなきゃだめだという社会人としての自覚が出てきたのが『桐島、部活やめるってよ』でした。最近気付いたんですけど、それ以降7年間くらい何もなかったんですね。もちろん細かいことはあったのですが、自分が大きく何かがガラッと変わるということはなくて。でも、まだ言えないんですけど、今やっている現場が人生で一番大きなターニングポイントになるだろうなと思っています。

ーー進化し続けているんですね。

橋本:進化しないと終わっちゃうから……。頑張ります(笑)。

ーー劇中ではオードリー・ヘプバーンの「何より大事なのは、人生を楽しむこと、幸せを感じること」という言葉が引用されていましたが、橋本さんの人生はどうですか?

橋本:今はそれよりも集中することがあるんですけど、ちょっと前までは自発的にそう思って過ごしていました。楽しまなきゃ損だなと。何かにつけて、良い点を見つけて、一見くだらなかったり、もっと言えば悪いものに見えているものの良いところを探して、それを自分に取り込むということはやっています。なのでその期間は健全で、生き生きしてるなと感じました。

ーー映画がお好きだと思いますが、最近心に残ったセリフはありますか?

橋本:細かく覚えてないけど、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』のラストシーンでの息子と父親の海辺のシーンは、3分間くらいで全部入ってくるほど圧巻でした。苦しいことも楽しいことも全部めぐり合わせで、自分にとって起こるべきことであって、その宿命感というのを圧倒的映像で説き伏せられたというか。すごく楽になりました。「あなたが僕を愛してくれなかったことで、僕は人を愛することを学びました」。それが言えるって最高だなと思って。何か不満を抱えていても、全部原動力に変えられるじゃないですか。でも魔法の言葉ではないんですよね、ただの事実でしかなくて。でもそれがすごく良かったです。

ーー本作のセリフも印象に残るものばかりだったと思います。

橋本:小説が素晴らしいですし、山内さんもセリフや言葉をどうしてもクサくしたくなく、ちゃんとみんなが腑に落ちる言葉選びにしようと気をつけたとおっしゃっていました。映画として脚本になると、届けるためのギリギリの言い回しになるのですが、山内さんのマインドを自分にも落とし込んだ、ちゃんと言葉の真実が伝わればいいなと思っていました。

(取材・文・写真=阿部桜子)

■公開情報
『ここは退屈迎えに来て』
全国公開中
出演:橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、亀田侑樹、瀧内公美、片山友希、木崎絹子、マキタスポーツ、村上淳
監督:廣木隆一
脚本:櫻井智也
原作:山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)
配給:KADOKAWA
(c)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会
公式サイト:taikutsu.jp

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