映画における残酷描写の規制に変化? 一昔前ならR18+だった表現がR15+止まりになる傾向に

映画の残酷描写規制に変化?

 この2本に共通するのは、犯罪映画だということだ。前者は精神病院から脱走した凶暴な若者、後者は北朝鮮から亡命してきた殺人鬼の凶行を描いた作品だ。『V.I.P. 修羅の獣たち』の修正ポイントは2点、1点目は殺人鬼が女性を絞殺する場面における、クビに食い込むワイヤー部分にボカシ処理、2点目は男性の斬首場面の暗転処理である。ちなみに『レザーフェイス-悪魔のいけにえ』にも二次利用向け(CS放送用)に、似たような削除が行われたR15+版が存在する。

 つまり、最近の映倫は、犯罪映画に対しての残酷描写への指導は相変わらず厳しいが、怪物や異星人、悪魔の仕業である場合や悪夢や妄想など実際に人間が行っていない残酷描写には寛容になりつつあるのではないだろうか?(映画自体が夢想じゃないかという話があるが……)

 ここで映倫の指導の意味についての話に戻す。映倫の指導は、よく「検閲だ」と言われているが、それは誤りである。日本憲法第21条において、検閲は行ってはならないことになっているからだ。映倫が行っているのは、あくまで指導なのである。では、この指導にどのような意味があるか?というと、「我々は映画の公開にあたり、作品に対してしっかりとした倫理審査を行い、問題なしと判断した」というアリバイ作りのためである。過度な性描写は「わいせつ物頒布等の罪」に問われる可能性があり、残酷描写は「倫理感の欠如した人間に真似される」恐れがある。そういった法律違反に問われる危険性やクレーム対策として存在しているのである。

 そう考えれば、現実的な犯罪映画の残酷描写に対する規制が厳しく、ファンタジー的ホラー映画の残酷描写には比較的規制が緩いという考えは、誤った解釈ではなさそうだ。

 筆者は、どちらにせよ“ただの映画”なのだから、マフィアが一般市民をショットガン撃ち殺そうが、異星人が人間の頭を引っこ抜こうが、描写としては差はないし、指導を受けて日本独自で編集を行うなど馬鹿馬鹿しいし、作品に対して失礼なことだと思う。だが、明確な基準がないと言われていた映倫の指導に、このような理解のしやすさが出てきたことは、ある意味、快挙ではないかと思う。

 ただし、このコラムを読んだ機会に、映画好き、とりわけホラー映画ファンは2つ認識しておいてほしいことがある。1つは、前述の通り、映画に手を加え、レイティングを落とす行為は頻繁に行われている。しかも、観客が気づかないレベルでの編集も多い。『哭声/コクソン』でやったような残酷シーンの明度落としを始め、『ソウ』シリーズでは内臓の色調を変えたり、凶器が突き刺さっている部分を黒くつぶしたりしているのだ。ちなみにどこをどのように映画を編集したか?は、日本の映画業界において「言わなくて良い」慣習となっているので、配給会社に聞いても教えてもらえないことが多い(※1)。映倫の指導結果も同様に、映倫に問い合わせても聞いても教えてもらえない。だが、映倫に間しては判断の概要は映倫サイトで検索可能だ。

 オリジナルにこだわりたいファンは是非、お気に入りの映画がどのような判定が成されたのか、検索してみることをオススメする。

 もう1つは、配給会社のレイティング対策は、決して悪意があってやっていることではないということだ。配給会社は、オリジナル作品そのままの公開を望んでいるのは間違いない。ただし、映倫の指摘に従ってR18+にしてしまうと、集客に影響し赤字になってしまう可能性がある。そして、レイティングを下げるには作品を編集しなければならない。そういうジレンマに頭を抱え続けているのだ。

 今回は、残酷描写に特化したコラムとなったが、性描写への指導はもっと事情は複雑で厳しいものがある。全てを語るには、とても字数が足りない(※2)。映倫と映画の表現規制は様々な問題を抱えているのだ。本コラムはその一片を語ったに過ぎない。

※1 本コラムに記載された各映画の修正箇所については、筆者が独自に劇場公開版とオリジナル版とを比較した調査結果である。
※2 映倫の歴史と映画の自主規制については、拙著『映画と残酷』(洋泉社)で詳しく書いているので、興味がある方は是非、お手に取っていただきたい。

■ナマニク
ライター。ZINE『残酷ホラー映画批評誌 Filthy』発行人。『映画秘宝』にて「ナマニクの残酷未公開 Horror Anthology」連載中。単著に『映画と残酷』(洋泉社)がある。2011年シッチェス映画祭に出展された某スペイン映画にヒッソリと出演している。

■公開情報
『REVENGE リベンジ』
出演:マチルダ・ルッツ、ケヴィン・ヤンセンス、ヴァンサン・コロンブ、ギヨーム・ブシェド
監督・脚本:コラリー・ファルジャ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
原題:Revenge/2017年/フランス映画/英語・フランス語/108分/シネスコ/R15+
(c)2017 M.E.S. PRODUCTIONS – MONKEY PACK FILMS – CHARADES – LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY – UMEDIA
公式サイト:revenge-movie.net

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる