小泉今日子、前田敦子らの食事姿が愛おしい 『食べる女』は自分と向き合うことを教えてくれる

『食べる女』は自分と向き合うことを教える

 また今作に登場する8人の女たちの中で、前田敦子が魅力的な役回りを演じていた。前田が演じていたのは“ぬるい”恋愛に物足りなさを感じているドラマ制作会社AP・白子多実子。今まで不倫恋愛ばかりしていた多実子が交際しているのは、自分のために料理を振る舞い、セックスの相性も悪くない男性だ。しかしどことなく“ぬるい”彼との関係に悩み、ジャンクな食べ物や情熱的な恋愛が足りないと敦子たちの前で不満を漏らす。別れを切り出すわけでもなく、だからといって結婚を望むわけでもない彼女の姿は、今時の男女関係の在り方に近く、共感を得られる人も多かったのではないだろうか。肩の力の抜けた自然体の演技で、安定と情熱的な恋愛に揺れる女心を演じた前田。また前田は、そんな多実子の抱える不満や愚痴を、ごくごく普通の女性として発する。多実子が不満や愚痴を漏らすシーンは、離婚危機に陥っているマチ(シャーロット・ケイト・フォックス)や別れた夫に未練の残るツヤコ(壇蜜)などテーマの重たい物語の合間に描かれ、それがこの物語の絶妙な息抜きとなっている。前田が演じた多実子のように、ドラマチックな役回りばかりではないのも今作の魅力だ。

 今作のテーマは「食べる」と「セックス」だが、描かれているのは登場人物それぞれの生き方だ。9月22日に行われた公開記念舞台あいさつで、敦子を演じた小泉は「この映画で少しでも世の中の女性、男性が明るくなることを祈ります」「女性のための映画だけど、間接的に男性のための映画でもあります」と話した。小泉が発した言葉のとおり、この映画は決して女性のためだけのものではない。表題に書かれた“女”という文字に、つい女性向け映画だと思い込みがちだが、自分の生き方を考えることができる今作は、男女関係なく鑑賞してほしい。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■公開情報
『食べる女』
全国公開中
出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO(ORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、眞木蔵人
監督:生野慈朗
原作・脚本:筒井ともみ『食べる女 決定版』(新潮文庫・8月末刊行予定)
主題歌:「Kissing」Leola(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
音楽:富貴晴美
PG12
(c)2018「食べる女」倶楽部
公式サイト:http://www.taberuonna.jp/

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