平手友梨奈主演『響 -HIBIKI-』の漫画的な手法 “天才”を描く試みをどうアプローチしたか

『響 -HIBIKI-』の漫画的な手法

 頭脳的な“天才”を創作物のなかで描く。考えてみれば、これはとても難しいことだ。なぜなら、天才でなければ天才がどういうものであるかを真に理解することはできないため、うまく表現ができないだろうし、仮に天才が天才を描いたとしても、天才でない大多数の者は、それを理解しにくいはずだ。ならば、作り手と受け手が天才であればいいのかというと、それはもう現実的な話ではないし、商業作品でもあり得ないだろう。

 柳本光晴の漫画『響 〜小説家になる方法〜』を原作にした本作『響 -HIBIKI-』は、小説を書くことについて、誰もが認めざるを得ないほどの圧倒的な才能を持った女子高校生を主人公にした映画である。本作は「天才」を描くという困難な試みを、どのようなアプローチによって達成しようとするのか。ここでは、『響 -HIBIKI-』の内容を振り返りながら解説・考察していきたい。

 本作の物語は、小説を読むのも書くのも大好きな女子高生、鮎喰響(あくい・ひびき)が、おそろしいまでの批評眼と、圧倒的な執筆の才能で、文壇の世界を駆けあがっていく姿を追っていく。その態度は傲岸不遜。どんなに立場が上の人間にも物怖じせず、間違っていると思えば、相手が芥川賞作家だとしても、助走をつけたジャンピングキックをお見舞いする。

 彼女はいわゆる「中二病」と呼ばれるような“イタい”奇行を繰り返しているようにも見えるが、その行動原理は、正しい生き方を追求し“筋を通す”という一念に貫かれている。そのクールで突き放した態度は、文芸部での活動など学校生活でも変わらないが、不愛想ながら友情をはぐくんだり、仲間たちとのレジャーをエンジョイしたりなど、一般的な女子高生のような可愛らしい一面も随所に見せる。

 なんといっても本作は、この鮎喰響を演じた平手友梨奈について語らねばならない。彼女は、クールでエキセントリックなパフォーマンスによって絶大な人気を得た女性アイドルユニット「欅坂46(けやきざかフォーティーシックス)」のなかでも、さらにエキセントリックな雰囲気を放つ中心メンバーである。愛らしい小動物みたいな容姿ながら、歌唱やダンスでは、何かが身体に乗り移ったようなパフォーマンスを見せ、ゾクッとさせるような怖さを持っている。

 本作はそんな彼女の、映画初出演にして初主演作品だが、初めてとは信じられないほどの迫力がみなぎった演技に驚かされる。天才・響の役を、演技経験の乏しい俳優が演じれば、目も当てれないような映画になってしまうことが予想されるが、ここにその予想を覆すことのできる才能を持った平手友梨奈をキャスティングしたというだけで、本作は存在価値を持ったように感じられる。

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