平手友梨奈主演『響 -HIBIKI-』の漫画的な手法 “天才”を描く試みをどうアプローチしたか

『響 -HIBIKI-』の漫画的な手法

 とはいえ、ここに新たな普遍的テーマが発生していることも確かである。本作における響が正義の側につくのならば、「悪」とは何なのだろうか。それは「殴った本人にはもう謝ったのに、何で世の中にしなきゃいけないの?」という、劇中で響が語った真っ当なセリフが象徴するように、同調圧力が支配し、自殺率の多い日本的な「世の中」そのものなのではないか。上下関係や年功序列を無視し、空気を読まない響という人物を通すことで、そこにある卑怯さや曖昧さというものが、どんどん暴かれていくのだ。『響 -HIBIKI-』が真に描くのは、そのような欺瞞に満ちた「空気」と、それを切り裂いた瞬間に生まれる、暗い快感である。

 本作で思いもかけず発見できたのは、モニターの前で登場人物たちが勢いよくキーボードを打つ姿が、意外にエキサイティングに描けるということだった。小説家やライターなどが仕事をしている場面は地味だと思われているが、画面のライトに照らされた顔はスクリーンに映え、ガチャガチャと響く音響にもエネルギーがある。そして、小栗旬が演じる売れない小説家が、原稿が完成した瞬間に思わず一筋の涙を流すという、エモーショナルなシーンにも胸を打たれた。“ものを書く”ということは、本人にとってドラマチックな行為なのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『響 -HIBIKI-』
全国東宝系にて公開中
出演:平手友梨奈、北川景子、アヤカ・ウィルソン、高嶋政伸、柳楽優弥、野間口徹、板垣瑞生、小栗旬、北村有起哉、吉田栄作
原作:柳本光晴『響~小説家になる方法~』(小学館『ビッグコミックスペリオール』連載)
監督:月川翔
脚本:西田征史
配給:東宝
(c)2018映画「響 -HIBIKI-」製作委員会 (c)柳本光晴/小学館
公式サイト:http://hibiki-the-movie.jp/

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