脚本家・野木亜紀子は“小さな声”に耳を傾ける ドラマをヒットさせる、視線と言葉の鋭さ
野木亜紀子は、旧時代的な価値観をアップデートする
野木亜紀子の言葉を借りるなら、彼女は「時代の気分」を捉える非凡な才がある。この秋から『獣になれない私たち』(日本テレビ系)と『フェイクニュース』(NHK)という2本のドラマがスタートするが、後者についてはその内容から「既存メディアがネット叩きをするのか」と一部ネットユーザーが危惧の声をあげた。しかし、野木はそれらの声を「もう2018年ですし」と一蹴。同じく『アンナチュラル』の企画当初も「事件を解決するときに、シンキングタイムのようなお約束があった方がいいんじゃないかという意見もあったんですけど、『もう2018年だしそういうのなくてもよくない?』」と不安視する声を退けたことをインタビューで明かしている(参考:野木亜紀子が振り返る、『アンナチュラル』の成功 「自分が面白いと思うものをつくっていくしかない」)。彼女には、世間の思い込みや固定観念に支配されず、古臭いものは古臭いと断じられる芯の強さがある。
第6話でミコトと東海林が「友達じゃありません」「ただの同僚です」と言い切ったのも爽快だった。「私ら一生友達だよね」とベタベタしているのが女の友情という手垢まみれのイメージをスルーし、野木の考える女の友情を描いた。こうした感覚も非常に2018年的と言える。
野木亜紀子のつくるドラマには、知らぬ間に植え付けられた勝手な偏見の数々から視聴者を救い、この国の旧時代的な価値観をアップデートしてくれる解放感がある。彼女のドラマを通じて広まった柔軟でのびやかな価値観が、“気が弱い人”も“声が小さい人”も生きやすい社会を築く礎となることを、いち視聴者として願っている。
■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002