石原さとみ演じるミコトは新しい理想の女性像だ 『逃げ恥』と共通する『アンナチュラル』の巧みさ
昨今のドラマには、「いつまでもその世界を観ていたい」というタイプのものがあり、そんなドラマのファンは、作品をとても大事に思っている傾向があるように思う。バカリズムの『架空OL日記』(日本テレビ系)しかり、坂元裕二脚本『カルテット』(TBS系)しかり、視聴者は作品を観ながら、「自分もその世界の一員だったらいいのに」と思うような気持ちを抱いていたのではないか。現在放送中の『アンナチュラル』(TBS系)にもそんな傾向があるように思う。
その要因のひとつには、主人公のミコト(石原さとみ)をはじめ、同僚の東海林(市川実日子)、六郎(窪田正孝)、所長(松重豊)の関係性がいいこともあるが、とっつきにくい中堂(井浦新)ですら、その内面が十分に描かれることで、やはりUDIラボに欠かせない人物だとわかる。『アンナチュラル』は、1話完結のスタイルをとりながらも、ミコトや中堂の過去についての謎が1話ごとに明らかになる。謎に包まれていた中堂が「永遠に答えの出ない問い」に向き合っていることなどが徐々に見えてきて、愛すべき……というのでは軽すぎるくらいだが、強く惹かれるキャラクターに変わっていく。1話の中では、毎回あっと驚く展開が待ち受けているし、しかも最後には、次回につながる布石が打ってもある。どこをとっても、書きたいことだらけなドラマだが、今回は主人公ミコトに焦点をあててみたい。
石原さとみは、かつてであれば、いわゆる“理想の女子”として象徴的な役割を担う役を演じていたように思う。職場で何か嫌なことがあっても、笑ってその場をしのげるような女の子を演じているようなイメージがあった(もちろん、映画『シン・ゴジラ』、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)など、徐々に変化をしていったからこそのミコト役のしっくり感だとは思うのだが)。
しかし、このドラマの石原さとみは、言うべきところでははっきりと誰にでもわかるように説明する。例えば、同僚の中堂から「お前」と言われたときには、「お前って誰のことですか?」と、昨今の女性たちが思っている疑問を口にする。また、ミコトの同僚・東海林が泥酔し(実際は薬物だったわけだが)、男性にホテルに連れ込まれたことを攻められると「女性がどんな服を着ていようが、お酒を飲んで酔っ払っていようが、好きにしていい理由にはなりません。合意のない性行為は犯罪です」ときっぱりと言いのける。
こうした、日常の中にある、モヤモヤに疑問を呈する行為というのは、かつてであれば“かわいげがない”キャラに背負わせることが多く、例えばお局様であったり、コミュニケ―ション能力の低い人、“職場の花”(この言い方にも問題はあるが)とは対極の女性が担うことがほとんどで、ヒロインはその対極の存在として描かれることもあった。それは世間においても同じで、「いちいち細かいことに目くじらを立てるな」「なにがあっても笑っていなさい」という理由でそのモヤモヤは無効にされてきた。女性がTwitterなどで意見を表明しただけで、「ブスが言っている」などと決めつけられることもある。世の中に対して思っていることを表明する行為そのものが気に入らないことであり、それはすなわち「ブス」だと言っているようだ。
そんな脅迫めいた視線は、ネットの世界よりも、会社などで当たり前のように存在していて、思ったことを口にできなかった人も多いのではないか。ミコトが世の女性たちが感じているが口にできなかったことをはっきりと表明してくれることは、観ている多くの女性たちにとっても勇気づけられることではないだろうか。