径子の息子を登場させたドラマ版『この世界の片隅に』は、戦時下における“居場所”を提示する
そしてまた、“居場所”というものは子供にも当然のように存在する。原作やアニメ映画版でも登場しなかった径子の息子・久夫(大山蓮斗)が呉をひとりで訪れ、跡取りとして母と妹と決別をすることを告げにくるのだ。子供らしからぬ聡明さで気丈に振る舞った久夫が、別れ際に見せる涙。その決断が社会の風潮によって選択を余儀なくされたものであるのであれば、殊更いたたまれない気持ちにさせられる。戦時中に女性と子供たちが背負っていた“居場所”を得るための“義務”というのは、最近話題になっている「生産性」なり子供たちをめぐるあらゆる事柄を踏まえると、現代にも色濃く残ってしまっているのではと感じてしまうほどだ。
そういえば、第4話にして初めて榮倉奈々演じる佳代が登場する現代パートが描かれない回でもあった。ドラマ版のオリジナルストーリーとして、すずさんの時代と現代とをつなぐ役割を果たし、明確に“今”“テレビドラマで”“この物語を描く”という3つの意味を提示するべき現代パート。次週予告では佳代とすずをつなぐ人物が登場するようではあるが、正直なところ、8月6日の前日の放送回にこそ現代とのつながりを持たせる必要があったのではないだろうか。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
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